第494話 凄いアレックス

「師匠。是非、師匠の技を見学させていただきたかったのですが……残念です」

「ミリアも、あの後どうなるのか見たかったよー!」


 ひとまずニースとユーリに頼み、メルヴィンとミリアを家に帰らせた。

 その後は、両手が塞がっていた俺に為す術はなく、結果として分身スキルを使って全員気絶させる事に。

 そして今は、村長の家で事情を説明する事になってしまった。


「……という訳なんだ」

「……いやもう、何と言って良いか。メルヴィン、アレックス殿の仕事っぷりはどうだったのだ?」

「え、師匠の? それはもう、凄かったよ! 近くで見る事は出来なかったけど、村のお姉さんたちの嬉しそうな声が響き渡っていたし。なぁミリア」


 いや、村長が聞いているのは、絶対にそんな話ではないだろ。

 というか、今のどこに仕事の要素があったのか。あと、ミリアにその話を振らないように。


「あのねー、先生のがすっごくてねー」

「よし、ミリア。その話は止めよう。あと、今日メルヴィンと一緒に行った作業は、畑を耕したのと、村の周りに塀を作ったくらいだな」

「ミリアは未だ十歳なのじゃが、一体何をしたのですかな? ……あと、塀を作ったというのは、村ではなくメルヴィンの畑の周りにですな? 誰か、どんな造りか見て来てくれ」


 あー、やっぱり村の女性たちがほぼ全員気絶したのが二回目だからか、村長が怒っているように思えるな。

 いやまぁ怒られても仕方ないのだが。

 一先ずミリアについては誤解だという話をしたところで、先程畑を見に行った村人が戻ってきた。


「そ、村長っ! た、大変だ! 凄い事になっている!」

「凄い……というのは、メルヴィンの畑がそんなに酷いという事か? それとも、アレックス殿に気絶させられた女性たちの事か?」

「違うっ! 自分の目で見た方が早い! 来てくれ!」


 村人の言葉で村長を始めとした男性たちが外へ。

 ちなみに満足させた女性たちは、全員ちゃんと安全な場所へ運んでいるから、外には居ないしな。

 一先ず、凄いというのが何の話かわからなかったので、俺も一緒について行くと、


「な、なん……じゃと!? は、畑が完成しておる! しかも、ちゃんと畔もあって、あとは種を撒くだけではないか」

「それだけではないんです。見てください! 村の周りが高い石の壁で囲まれていて、魔物が入って来れないようになっているんです!」

「こ、これをたった一日で……じゃと!? わ、ワシらは夢でも見ておるのか!?」


 どうやら石の壁の事を言っていたようだ。


「俺が最初に開拓を始めた時、魔物が寄って来て困ったからな。その魔物対策として壁を作っておいたんだ。あと、幾つかの箇所は出入り出来るように隙間を作ってあるから、そこは門か何かを設置してくれ」

「な、何と凄い……アレックス殿。わかりました。村の娘たちをよろしく頼みます」

「……ん? 何の話だ?」

「いえ、今朝の話です。村の娘たちにアレックス殿の提案の話をすると、全員がアレックス殿について行くと言いましてな。村が終わると思っておりましたが、ここまで整備してくださったのであれば、次の世代……ミリアたちが成人するのを待とうかと思いまして」


 話を聞くと、村長が怒っていた……というか、不機嫌だったのは、誰一人として村に残るという選択肢が無かったかららしい。


「いや、希望者は全員連れて行くつもりだったが、全員が希望すると流石に連れて行くのは難しいな」

「アレックス殿からも、娘たちを説得してくださいませんか? 和解金……こほん。ではなくて、村に残ってアレックス殿を待つという選択肢を」

「そうだな。夕食の後にでも、話をさせてもらおう。……そうだ。すっかり忘れていたが、今日村に来た魔物を倒しているんだ。肉が大量にあるから、皆で分けよう」

「え? 魔物の肉……ですか?」

「あぁ、大丈夫だ。神聖魔法で浄化済みだからな」


 魔物の肉はそのまま食べると毒だが、ちゃんと浄化すれば普通に食べられるからな。


「神聖魔法……なるほど。そちらの天使族の娘さんが居られるからですね?」

「あぁ。その通りだ。まぁ俺もパラディンだから、浄化魔法は使えるがな」

「え? アレックス殿がパラディン!? 聖騎士ですか!? 性騎士や生殖者の間違いではなく!?」


 何故俺がパラディンだと驚かれるのかは分からないが、一先ず皆で夕食となった。

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