第650話 水に流す

 翌朝。

 モニカが溺死しかけていた事を除けば、ある意味でいつも通り……まぁその、レヴィアとプルム以外気絶している訳で。

 ひとまず、プルムがアレを処理してくれるので、人魚族の村を汚さずに済んだ。

 とはいえ、水路に入ってしまったアレは、プルムもどうしようも出来ず、それなりの量が流れていってしまったが。


「アマンダちゃん。アレックスさん。おはようござ……あらあら。ちょっと皆さん。寝相が悪すぎではありませんか?」


 ラヴィニアの母親が起こしに来て……うん。プルムが掃除してくれていたのと、分身を消しておいて良かった。

 ただ、レヴィアは未だに俺の上でもぞもぞしているが、


「あらあら。アレックスさんと仲が良いのね。皆さん……朝ですから、起きてくださーい!」


 幼いレヴィアを見て、遊んでいるだけだと思ってくれたようだ。

 ひとまず、母親の隙を見て、レヴィアを満足させ、大急ぎで着替えて皆を起こしていく。

 それから朝食をいただき、出発しようかというところで、ラヴィニアが口を開いた。


「あなた。少し考えたんだけど、私は暫くここで過ごそうと思うの」

「そうか。両親や友人たちが居るもんな」

「えぇ。この前のノーラちゃんを見て、そういう選択肢も有りかなって思って。あの風の四天王も、あなたが倒してくれたしね」


 ラヴィニアは風の四天王ギルベルトに操られかけた事もあったけど、アイツも倒したし、再び操られそうになる事もないだろう。

 西の大陸へ行けば、ゆっくりする時間もないだろうし、せっかくなので家族と過ごして欲しいとも思う。


「わかった。川を上ったところにある温泉の村まで行ってくれれば、ニースが居るから、俺たちに連絡出来るだろう」

「ありがとうございます。あと……もう一つだけお願いがあるの」


 ラヴィニアに、プルムの分裂体を残して欲しいと言われ、昨日新たに生まれた二体を預ける事に。

 アレの量的には、サムエルの村の時のように五体くらい分裂してもおかしくないのだろうが、アレが水路に流れていったのもあって、二体だけが分裂していた。

 それはさておき、今度こそ西の大陸へ向けて出発するという事で、ラヴィニアが洞窟の外まで見送りに来てくれるという事になったのだが、


「……アレックス! 何か……来る!」

「アレックスよ! 我のところへ来るのじゃ! これは……マズいのじゃ!」

「な、何だ、この魔力量は!? レヴィアより魔力が……多い!?」


 レヴィア、ミオ、ザシャが慌てはじめ、ミオが結界を張る。

 だが、その結界が……消えた!?


「わ、我の結界が打ち消されたのじゃ!」

「ミオの結界が!?」


 これまで、幾度となく助けてもらったミオの結界が消されるというのは、相当なものだと思うのだが……三人に遅れて、ようやく俺も感じた。

 何かはわからないが、とんでもない存在が近付いて来ている気がする。

 その直後、水路の水が盛り上がり……人型になった!?


「……この魔力。そこの人間族の男性。これは貴方ですね?」

「……え? すまない。何の話だろうか。あと、失礼だが何者なのだろうか」

「私はセオリツヒメ。罪や穢れを水に流して浄化する川の神です」


 川の神……って、やっぱりラーヴァ・ゴーレムが言っていた、レヴィアの力で目覚めた神様か。

 ミオの結界を破ったり、ザシャがレヴィアより魔力が高いというのも分かる。

 目の前にいるのが、神様な訳だし。


「すみません。話を戻させてもらいますが、俺が何をした……という話なのだろうか」

「昨晩から今朝にかけて、貴方の魔力の塊を河に垂れ流していましたよね? 少しくらいの魔力であれば何の影響もありませんが、これ程までに魔力と生命力に富んだものを大量に流されると、困るという話です」


 魔力の塊……?


「……アレックス。子種の事を言ってる。アレックスの子種は、凄い魔力を帯びてる」

「そういえばアレックスの子種に誘われ、海で大物……というか、女神が釣れた事もあったのじゃ」

「女神……って、アレックスなら有り得そうだな」


 レヴィアが目の前の女神の言葉を分かるように教えてくれたが……ミオとザシャが大きく頷くのは何故だ?


「……それについては、すみませんでした。気を付けます」

「いえ、分かっていただければ良いのです。先程お話しした通り、私は罪や穢れを水に流す神です。怒っている訳ではなく、注意しにきただけです。そして、貴方が出した魔力の固まりも、私が浄化しました」

「……勿体ないのじゃ」


 ひとまずセオリツヒメに謝罪し、丸く収まった感じだったが、ミオは余計な事を言わないように。

 それから、言葉通り注意を促しに来ただけで、再び水路の中へと帰って行った。


「ご主人様……女神様を呼び出してしまうなんて、流石です。その女神様が一目置く子種を、是非私にっ!」

「いや、モニカは話を聞いていたのか? 河でするなって怒られたんだからな?」


 セオリツヒメの登場で、皆が大慌てしたが、ひとまず何事もなく出発する事が出来た。

 今度こそ、西の大陸だっ!

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