第642話 サムエルの村

「ご主人様ぁぁぁっ! ご主人様ぁぁぁっ!」


 プルムが柔らかいマットのようになってくれたおかげで、モニカが何とか無事に降りてきた。

 そのまま抱きついて来たが、先ずはプルムに礼を言おうな。


「プルム殿。誠にありがとうございます。あと、プルム殿のおかげで、フェリーチェ殿が発狂せずに済みました。まぁ勿論ご主人様のメイドである私は我慢致しましたが」

「モニカさん。確かに私はプルムさんの分裂体といろいろありましたが、あくまでアレックス様の姿をしているからです。これもアレックス様への愛に違いありません!」

「ふっ、笑止! ご主人様のお身体に間接的にもご奉仕出来る分身はともかく、プルム殿の分裂体はご主人様に何のご奉仕も出来ない! つまり、フェリーチェ殿が独りでしているようなものだ!」

「……モニカさんは、毎晩独りでしてましたよね?」

「――っ!? な、何故それを……はっ! し、しまった! これは誘導尋問っ!」

「いえ。モニカさんの声が単に大き過ぎるだけです。隣の部屋なので普通に聞こえてきました」


 えーっと、モニカとフェリーチェは一体何の話をしているんだ?


「ふっ……可哀想なのじゃ。だが、気持ちは分かるのじゃ。我も数日アレックスに放置されたのじゃ」

「私は数日なんてレベルではなかったです! でも今は凄く愛していただいているので、大丈夫です!」

「あなた。サムエルの村についたら抱いてくれるという約束でしたよね?」


 二人の話を聞いていると、何故かミオとグレイスが大きく頷き、ラヴィニアが胸を押し付けてくる。


「そうだ。モニカ、フェリーチェ。サムエルの村という所に行くようにとメイリンから言われたのだが」

「ご主人様。サムエルの村なら、ここの事です」

「ここ? ……あ! 木の上か!」

「はい。しかも、この村はノーラ殿の故郷でした」

「何だって! では、ノーラの両親が居るのか!?」


 俺の言葉にモニカがハッキリと頷いた。

 これは……何とかしてノーラを連れて来てあげたいな。

 グレイスの空間収納で船を格納しているし、天后の転移スキルと合わせて何とかならないだろうか。

 ……いや、無理か。

 第一魔族領から降りたとしても、迎えに行かなければならない。

 だがノーラが故郷に帰れるというのであれば、是非帰してあげたいのだが。


「ひとまず、ノーラの両親に会わせてくれないか?」

「わかりました……が、ご主人様。今晩はお願い致しますね。というか、私は今すぐここででも構いませんっ! というか、むしろそうしてくださいっ! もう限界……限界なんですっ!」


 とりあえず、モニカをスルーしつつ、客人用の隠し通路……というか、梯子へ。

 ただ、ラヴィニアは登りようがないな。


「一旦、ノーラの両親に挨拶をしてくるから、皆は待っていてくれないか?」

「……アレックス。降りてこなかったら、レヴィアたん怒る」

「あなた。村に着いたらっていう約束ですからね?」


 レヴィアとラヴィニアから凄い圧を掛けられつつ、モニカとフェリーチェと共に木の上へ。

 ラヴィニアはプルムのおかげで森の中でも大丈夫そうではあるが、出来るだけ早めに戻るようにしよう。


「ご主人様。ノーラ殿のご両親の家はこちらです」

「わかった、ありがとう。……失礼する」


 モニカに言われた家の中へ入ると、


「ノアちゃん。おじいちゃんの所へおいでー!」

「ノアちゃん。これ食べる? おばあちゃんの方が良いわよねー?」


 ノーラの両親と思われるリス耳の男性と女性が、ノーラの人形ノアと遊んでいた。


「あ、パパー!」


 ノーラの両親よりも先に、ノアが俺に気付き、走り寄って来ると、


「くっ! やはり爺では父に勝てぬのかっ! 完敗だっ!」

「あなたがノアちゃんの……こんなに可愛い孫をありがとうございますっ!」


 モニカたちがどういう説明をしたのか、ノアが完全に孫扱いされていた。


「初めまして。俺はアレックスという者なのですが、お二人はノーラのご両親と聞いておりまして……」

「はい。その通りです。貴方が、奴隷にされた娘を助けてくれ、嫁にもらってくれたアレックスさんですね? 娘を助けてくださって、本当にありがとうございます」


 ノーラの父親に深々と頭を下げられ、ひとまず経緯などについて話す事にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る