第10話 冒険者ギルドから必要な物を聞いてきたので、女性の服と答えたら心配されてしまった
「おはようございます。アレックスさん、起きられていますか?」
昨日と同じく抱き枕代わりにされて目を覚まし、リディアが作ってくれた朝食をいただいた所で、天井付近から女性の声が聞こえてきた。
「あぁ、起きているぞ。その声は……タバサか?」
「はい、その通りです。そちらの生活はどうですか?」
「小屋から外に出た時は驚いたが、色々あって快適に過ごせている。少しずつだが、開拓も進んでいるぞ」
「か、快適なんですね。……もしかしてアレックスさんって、ドMですか?」
「おいおい。誤解を招くような変な事を言うなよ」
慌てて違うという仕草をリディアに向けると、クスクスと小さく笑う。
既に裸を見たりしてしまっていて、リディアからの心証が悪いのだから、これ以上酷くしないでくれよ。
「誤解を招く……って、まるで誰かに聞かれているかのような言い方ですけど、ギルドの魔法装置を使っているので、盗聴の心配はありませんよ?」
「いや、そういう訳では無いのだが、まぁそれはさて置き、こちらから何か報告すべき事などはあるのか?」
「そうですね。特には無いのですが、食べ物とかは大丈夫ですか? 美味しいパンやパスタは食べたくありませんか?」
「いや、それも大丈夫だ。今朝も美味しいパンケーキを食べたし、昨晩はパスタだったぞ」
リディアは玉子があれば、色んな料理の味が更に上がると言っているが、今でも十分美味しい。
そういえば、昨日作ったパスタに合うからと、今日はトマトを植えたいと言っていたな。
「えっ!? そ、そう……ですか。……おかしいなぁ」
「ん? おかしいとは?」
「あ、えーっと、おかしぃ……お、お菓子とかはどうですか? デザートとか食べたくないですか?」
「それも大丈夫だ。物凄く旨いアップルパイがある。とにかく旨くて、その気さえあれば、店で売れるレベルだな」
材料も調理器具も足りない中で、あれ程の味を出せるのは本当に凄いと思い、ただそれを素直に言っただけなのだが、リディアが大袈裟すぎるとでも言いたげに、ペシペシ俺の腕を叩いてくる。
少しも痛くは無い……というか、まるで撫でられているかのような弱さではあるが、変な事を言うなと怒っているのだろう。
「あ、アップルパイ!? い、意外過ぎる……というか、リンゴなんて送ってませんけど?」
「あぁ、木になっているからな」
「木!? あ、あれ? そこは不毛の地と呼ばれている場所で、木なんて生えてないと思うんですけど」
「不毛の地!? まさか、それって魔族領の事じゃないだろうな?」
「バレちゃいましたね。いえ、別に隠して居た訳ではないんですけど、説明する間もなくアレックスさんが行くと言ったので、言いそびれてしまったんです」
「んー、まぁどこへ行くか聞かなかったのは確かだが……とりあえず、一番近い街はどの方角へ行けば良いんだ?」
「近くに街なんて一つもありませんが、強いて言えば……南ですかね。それでも、かなりの距離がありますが」
南か。とりあえず、リディアをエルフの森へ帰してあげなければならないから、今後は南の方角に向かって開拓していこうか。
「ところで、ここは魔族領という事だが、ここからフレイの街へ帰る時はどうすれば良いんだ?」
「あー、それなんですけど……やっぱり帰りたいですよね?」
「今すぐという訳ではないが、生まれ故郷だしな」
「で、ですよねー。えっと、実はそこから戻って来るには、召喚魔法を使ってもらわないといけないんですけど、賢者様が大忙しで、最短でも二か月先になると言われていまして」
「そ、そうなのか」
「はい。でも、こちらから送る分には転送装置があるので、食料や水など、必要な物は適宜お送りしますので」
ふむ。フレイの街の方がエルフの森に近いのであれば、そちらから……とも思ったが、そもそもすぐには帰れないのか。
その事をリディアに謝ろうとした所で、タバサがそのまま話し続け、
「あの、帰れない代わりに……という訳でもないのですが、アレックスさんのお仕事を手伝いたいと申し出てくれている女性が二人居るので、そちらにお送りしますけど……」
その言葉にリディアがピクンと反応した。
その表情から読み取れるのは、困惑……か?
食事はリディアが居れば大丈夫だし、服はこの後送ってもらう。
来るのが男なら、俺と一緒に畑を耕す事が出来るものの、女性には辛い作業となる。
つまりリディアの表情から察するに、女性が手伝いに来てくれても、あまり出来る事がない……という事を言いたいのではないだろうか。
「いや、大丈夫だ。こっちは間に合っている。それより、さっきの物資の話で、毛布と衣類を送って欲しいんだが」
「えぇっ!? い、要らないんですかっ!? ……ど、どうしよう。まさか断られるなんて思ってなかった……。え、えっと……毛布と衣類ですね? それは次の食料と一緒に送るように手配します」
「頼むよ。で、その際に……その、女性ものの服を一式、何着か入れて置いて欲しいんだ」
「……はい?」
「だから女性ものの服だってば。サイズは……エリーと同じくらいの身長だけど、少し細身な感じで」
「……アレックスさん。やっぱり誰か送りますよ。そこまで女性に飢えているなんて……」
「違うってば! 食料も沢山必要になるし、人は送らなくて良いから!」
何だか物凄い誤解をされてしまったけど、人は要らないと念押しし、タバサとの会話が終了する。
ちなみに、このやり取りがツボにハマったのか、リディアが暫く俺の背中をペシペシ叩き続けてきた。
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