第9話 寝相の悪い美少女エルフから抱き枕代わりにされる俺。毎朝精神修行をする事に

 一人でコツコツやれる仕事を……と、ギルドに言ったら、とんでもない場所に送られてしまったが、リディアのお陰で空腹に悩まされる事もなく、無事に朝を迎える事が出来た。

 出来たんだが……この美少女エルフ。少し寝相が悪くないだろうか。


「リディア、おはよう」

「ん……アレックスさん。おはようござい……えぇっ!? す、すみませんっ!」

「い、いや。こちらこそ、すまん」


 一体何がどうなったのか、俺が目覚めた時には、リディアが俺の胸に抱きつくような格好で眠っていて、ムニムニと柔らかい感触を押し付けてくる。

 俺としては色々とよろしく無い状況なのだが、眠っているのに起こすのも可哀想だ……と考えているうちに、リディアが目を覚ました訳だ。


「……あれ? でも、俺たちは背中合わせで眠っていて、リディアはこっち側で眠っていなかったか?」

「あ、アレックスさんの勘違いだと思いますよ? 窓から入る月明かりしかなくて、真っ暗でしたし。あ、それより、顔を洗います? お水出しますよー」


 ゆっくりと俺から離れたリディアが起き上がり、顔を洗う為に外へ出ようとしていたので、俺も続く。

 うーん。顔を洗うだけでも、リディアに協力してもらわないといけないというのは、中々困ったな。

 あまりリディアの負担にならないよう、川とか湖とかを探すべきだろう。


「アレックスさん。今日は何をしましょうか?」

「そうだな。ここは足りない物が多過ぎるから、先ずはそれを補う為に何をすべきか考えようか」

「足りない物と言いますと……」

「例えば、水かな。顔や身体を洗う度に、リディアの力を借りなくちゃいけないし、申し訳なくてさ」

「わ、私なら大丈夫ですよ? 精霊魔法を使えば使う程、その……あ、アレックスさんに触れてもらえますし……」

「ん? すまん。最後の方がよく聞こえなかったんだが」

「な、なんでもないですっ!」


 リディアが小声で俯きながら話すので、聞こえなかったと伝えたら、耳まで真っ赤に染めて怒りだしてしまった。

 ……本当に、女心は難しいな。何が地雷なのかが少しも分からない。

 よく聞こえなかったものの、とりあえず「その通りだな」と同意しておくのが正解だったのだろうか。

 いや、それはそれで失礼だと思うし……誰か模範解答を教えてくれっ!


「あー……一先ず話を元に戻すが、あと足りない物としては、衣類かな」

「あの、私はアレックスさんのシャツでも良いですよ?」

「だが、その……俺のシャツ一枚だけで、他に何も身に着けていないというのは、目のやり場に困るというか、時折チラチラと色んな所が見えそうになってしまうし」

「えっと、既に私はアレックスさんに生まれたままの姿を晒していますし、今更気にしませんよ?」

「そ、そういう訳にもいかないだろ。それに、元々俺の着替えとして荷物袋に入れていた分しかないから、数枚しか無いんだ。何かで破れたりすると、あまり代えが無いんだよ」


 長期でダンジョンに潜る事もあるからと、確か十枚くらいは入れておいたはずだ。

 あと、衣類……という訳ではないが、毛布ももう一枚欲しい。

 また昨日みたいに、一緒に寝ようと言われ、今朝みたいな事になったら……いや、そうなっても俺が平常心を保てば良いんだ。

 うむ、修行だ。俺の精神を鍛える修行だと考えよう。


「しかし、アレックスさん。実際問題として、衣類は難しい気がします」

「だよなぁ。唯一可能性があるとすれば、魔物の皮を布の代わりに……って思うんだけど、今の所シャドウ・ウルフしか見かけないからな」


 どうしてなのかは分からないが、シャドウ・ウルフは倒すと影の様に掻き消え、何も残らない。

 そのため倒しても何も得られないという、ただただ迷惑なだけの魔物だ。


「とりあえず、アレックスさんをここへ送ったギルドから、定期的に連絡があるんですよね? 昨日、食料を送ってもらいましたし、衣類についてはギルドから送ってもらうのが良いのではないでしょうか」

「なるほど……だ、だが、待ってくれ。シャツや毛布は言えば送ってくれそうだが、その……女性用の服とか下着とかを送ってくれるだろうか」

「それは……連絡してくるのが女性なら、詳細に私の服のサイズなどをお伝えすれば、送ってくださるのでは?」


 まぁこれはその時が来たら考えるか。

 おそらくタバサが連絡してくると思うのだが、違うギルド職員が連絡してくる可能性もあるしな。

 その後も色々話をして、一先ずリディアの負荷が大きくならない範囲で壁と堀を作っていき、少しずつ開拓範囲を広げていく事にした。

 行動範囲を広げれば、そのうち川が見つかるかもしれないし、シャドウ・ウルフ以外の……というか、食べられる動物と遭遇するかもしれないし。

 それから、昨日と同じ様に俺がリディアをおんぶして、魔力を分けながら壁を広げたり、畑の植物に水をやったり。

 後は、畑を少し広くして、新たに大豆を追加してもらった。

 果樹は、リンゴとミカン。畑にはキャベツとポテトに、小麦と大豆……本来なら収穫する季節なんかも異なりそうなのに、リディアの精霊魔法は本当に凄いな。


「では、アレックスさん。おやすみなさい」

「あぁ。おやすみ、リディア」


 結局昨晩と同様に一つの毛布でリディアと眠りにつき、その翌日……ようやくギルドから連絡があった。

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