第453話 海の上のモニカ

「じゃあ、先ずは上手く浮かぶかの確認だけど……うん、大丈夫みたいだねー」


 シーサーに運んでもらった家を海に降ろし、無事に浮く事が確認出来た。

 しかし船みたいな形状とはいえ、床下が鉄なのに浮かぶのは何故なのだろうか。


「じゃあ次はレヴィアたんの番。この家に付いている、鎖を引くの?」

「あぁ、頼むよ」

「わかった。けど……この辺は浅過ぎるから、ある程度ラヴィニアに引っ張って来てもらう必要がある」


 これで浅いのか。

 いや、ドラゴンだもんな。

 ヴァレーリエも火竜になったら物凄く大きいし。

 レヴィアが海へ入り、ある程度離れたところで、その姿が巨大なシーサーペント――海竜に姿を変えた。


「凄いな」

「ウチの方が凄いんよ」

「何故か、レヴィアさんを見ていると頭が……いえ、何でもありません。あの距離くらいなら頑張れば運べると思うので、行ってきます」


 そう言って、ラヴィニアが家の先端から伸びる鎖を手にして、レヴィアに近付いて行く。

 ちなみに、この鎖も船みたいな床部分も、ニナが錆び難くなる処置をしてくれているらしい。

 だが、それでも錆びてきたら、ニナの人形が再び処置するそうだ。


「ではレヴィアさん。お願いします」


 ラヴィニアが鎖をレヴィアの口へ持って行くと、家が凄い速さで進んで行く。


「今更だが、これならもう少し大きくても運べそうだな。いや、作り直したりはしなくて良いが」

「もしも、また作る事があったら、その時は一回り大きくしても良いかもねー」


 ニナとそんな話をしているウチに、人の姿に戻ったレヴィアが戻ってきた。


「どう?」

「流石はレヴィアだよ。凄かった」

「ん……嬉しい。あとで、ご褒美……」


 ラヴィニアも家を引いて戻ってきた所で、ニナとノーラが念の為、家に問題が無いか確認し……大丈夫だという話なので、荷物を乗せていく。

 最後に、俺とリディア、モニカとミオが乗り込み、ニナ、ノーラ、ステラ、ユーディットの人形が乗る。


「では行ってくる。皆、あとは頼んだ」

「ちゃんと夜には戻ってくるんよ?」

「お兄さーん! おみやげ宜しくねー」


 ヴァレーリエに戻って来いと念押しされ、ニナにおみやげを……って、海の上だと魚くらいしかない気もするが、一先ず出発した。

 ある程度深い所までラヴィニアが引いて行くと、鎖を海竜の姿になったレヴィアへ。

 ラヴィニアが家の端に上がったところで、徐々にレヴィアが加速していく。


「≪隔離≫」

「≪閉鎖≫」


 ミオが結界で家を守り、俺は結界でラヴィニアが落ちないようにする。

 こんなにも広い海で、万が一はぐれたら大変だからな。

 レヴィアに家を引いてもらい、暫く海の上に居ると、モニカが何か言いたそうにしながら、モジモジし始めた。


「ご主人様。あの……」

「どうしたんだ、モニカ。まだ昼食には早いと思うのだが」

「そうではなくて……と、トイレに行きたいのですが」

「それならトイレに行けば……ん? あれ? ……無い!?」


 そういえば、人形たちが住んでいる小屋を少し大きくすると言っていた気がするな。

 人形たちはトイレが不要だから……ノーラが作り忘れたのか。


「そ、そうなんです。で、流石に小屋の中でする訳にはいきませんよね?」

「当たり前なのじゃ。絶対に許さないのじゃ」

「ミオ殿の言う通り、家の中ではダメなので、外でする必要があります。しかし、万が一落ちてしまったら大変な事になってしまうので、ここは一つご主人様に飲んでいただ……め、目が冷たいっ!」


 いや、モニカが何を言っているのか、本気で意味が分からないのだが。


「こほん。では、次点の策として、海へ落ちないように、ご主人様に抱えてもらいながらしたいなと」

「落ちないように支えるというのなら、まだ分かるのだが、抱えるというのは?」


 前にユーディットの人形ユーリが聖水を出すのを手伝った事はあるが、それをモニカにしろと?


「暫く皆で過ごす家です。確実に海へ放出出来るように、高い位置からすべきかと思いまして」

「わかるー。パパにだっこしてもらうと、おしっこしやすいよねー! きれーにふきふきしてくれるし」

「そう、それですっ! 流石はユーリ殿。よく分かっている。ご主人様、私にもふきふきをお願いしますっ!」


 え? ユーリがモニカへ加勢し……いや、本当にするのかっ!?


「さぁ、ご主人様。早くお願いしますっ! でないと、漏らしてしまいますっ!」

「くっ。し、仕方がない……のか? ……はぁ。モニカ、外へ行くぞ」

「早く早く……あぁっ、ご主人様に抱えられながらだなんてっ! ……こ、これは、何て背徳的っ! ゾクゾクするっ!」


 俺は海まで来て、一体何をしているのだろうか。


「ほほぉ。我も今の姿であればアリなのじゃ。リディアもどうじゃ?」

「わ、私はしませんっ!」

「なるほど。人間族は、そんな習慣があるのですね」


 とりあえず、ミオはモニカの変な真似をしないで欲しいのと、ラヴィニアは人間の文化を勘違いしないでくれーっ!

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