挿話9 混浴なお風呂と、素直なニナを見習いたいアークウィザードのエリー

 ニナちゃんがお風呂を作ってくれたけど、手桶などが無いという理由で、シャワーと同様にアレックスと一緒に入浴する事になった。

 はっきり言わせてもらうと、この中では私の身体が一番女性らしいので、アレックスとの入浴というのは、最も私がアピールする事が出来る。

 出来るのだけど……さ、流石に恥ずかしいのと、何より露骨に見せるのは違う気がするし、さり気なくアレックスを攻める為には、どうすれば良いのだろうか。

 そんな事を考えながら、昨日と同じ様に服を脱いで居ると、


「あー! 思いだしたーっ! ニナ、お兄さんにおんぶしてもらってない!」

「……あ、洞窟からエリーを連れ帰った時の話か。じゃあ、また明日にでも……」

「やだっ! じゃあ、今してっ!」

「いや、今は絶対にダメだろ! ……って、おい! ニナ! 勝手によじ登るなっ!」


 ニナちゃんが……全裸になったニナちゃんが、全裸のアレックスにおんぶしろと、大きな背中に登り始めた。

 な、なんですってーっ!

 流石にニナちゃんの体型では、アレックスも変な事を考えないでしょうけど、万が一という事は……な、無いわよねっ!?


「な、なんて大胆な……わ、私も負けていられません……」


 隣で着替えているリディアさんも、ニナちゃんの行動を見て唖然としているけれど、気になる事を呟いている。

 まさか、リディアさんがニナちゃんと同じ事をする気なのっ!?

 ニナちゃんはともかく、リディアさんは絶対にダメよっ!

 そんな事は、何としてでも阻止しなければならないと考えて居ると、


「お兄さん! さぁ、お風呂まで出発ーっ!」

「ちょ、ニナ……あぁもうっ! リディア、エリー。行けるか?」

「は、はいっ! 大丈夫ですっ!」


 アレックスに呼ばれ、二人で駆けて行く。

 それからリディアさんが後ろ向きになって、アレックスと背中合わせになり、手を繋いで歩いているけど……正直言って、もうこれ必要なくない?

 アレックスは後ろを見ないでしょうし、着替えている時は、私もリディアさんもアレックスの身体を見まくっているし。

 うーん……アレックスとリディアさんが手を繋いでいる事に嫉妬しているのかなー?

 自分でも、今の感情がよく分からずに、一先ずついて行くと、石の床――水浴び場へ着いた。


「リディア。先ずは身体の汚れを取りたいから、シャワーを頼む」

「分かりました。では、水を出しますね。……≪恵の水≫」

「えっ!? ちょっと待ってよ! どうしてお風呂があるのに、冷たいシャワーを……ひゃあぁぁぁっ!」


 ニナちゃんが、ぎゅっとアレックスの首にしがみ付く。

 うぅぅ……ニナちゃんに変な意図がある訳ではなく、自然体だから余計に羨ましいよ。

 私も……私も、ニナちゃんみたいに、アレックスへ抱きつきたいっ!

 それからリディアさんが水を止めると、そのままアレックスが浴槽へ入り、ようやくニナちゃんが背中から離れた。


「暖かーい! やっぱり、お風呂は最高だよねっ! でもニナとしては、もう少し熱めでも良いかも」

「俺は、これくらいでも良いと思うが、ニナは熱いのが好きなんだな」

「わ、私もこれくらいの温度で良いと思うわ」


 本当は少し熱いと思うけど、アレックスが良いって言っている温度だから、慣れないとね。

 こ、これから、一緒に入る事になる訳だし。


「わ、私はもう少し冷たい方が良いのですが……だ、大丈夫です」

「リディア、大丈夫なのか? エルフだし、熱いのは苦手だよな? エリーの氷魔法で温度を下げてもらうか?」

「少しくらいなら大丈夫ですよ。それに、せっかくニナさんが作ってくださった訳ですし」


 リディアさんがアレックスの正面に浸かって喋っているけれど、熱めのお湯のおかげか、かなり湯気が出て居るので、互いに顔すら見えて居なさそうだ。

 これなら、リディアさんとアレックスは互いの身体が見えて居ないだろう。

 一方で、二人の中間くらいで壁にもたれている私は……残念。やはりアレックスの身体までは見えなかった。

 水中は見えないけど、アレックスの顔は見えているから……向こうからも、私の顔は見えているのかな?

 という事は、少し座りなおして、胸を少しだけ水面から上に出してみたら、アレックスにアピールが出来るのでは!?

 恥ずかしさと戦いながら、勇気を振り絞って胸を少しさらけ出してみると、


「お、おい。エリー」


 早速、アレックスから声が掛けられた。

 作戦成功……って、ちょ、ちょっと待って。アレックスが立ち上がって、近付いて来てるっ!

 み、見せ過ぎたっ!? ど、どうしよう。ここでしちゃうの!? アレックス……すぐそばに、リディアさんとニナちゃんが居るのよっ!?

 リディアさんはともかく、ニナちゃんには教育上良くない気がするわよ!?

 けど、ここでするか、小屋でするかの二択なら、今すぐここで……来たっ!

 ついに、ついにこの時が来たのねっ!


「あ、アレックス……」

「エリー。リディアの様子が変じゃないか? さっきから、ぐったりしている気がするんだが」

「え? リディアさん? ……って、のぼせてるっ!?」

「エリー、何か弱い氷魔法を! ニナ、何でも良いからリディアの身体を覆う物を持ってきてくれ!」


 私の前を素通りしたアレックスが、リディアさんを抱き上げ、水浴び場の石の上に寝かせる。

 私とニナちゃんも、それぞれの対応を行い、アレックスが治癒魔法を使ったので、一先ずリディアさんは大丈夫そうだ。

 だけど、ニナちゃんが持ってきた薄い布が濡れた身体に貼り付いたリディアさんへ、アレックスが心配そうな表情を向けている。

 こんな時にこんな事を考えちゃダメだけど……私もアレックスに介抱してもらいたいよーっ!

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