第757話 魔族領へ向かうアレックス

「南西に魔族領があるという話だが、具体的にどの辺りか教えてくれないだろうか」

「この本部から南に延びるドワーフの道がありまして、それを進むとイベールという国に着きます」

「ふむ。南か」

「はい。そして、イベールからドワーフの道で西に進むと、そこが魔族領です」


 魔族領にドワーフの道で行けるのか!?

 いや、俺たちの拠点である東大陸の第四魔族領も、今となってはレールが敷いてあったりするが、北大陸の第一魔族領も宙に浮いていて普通には行けなかったので、驚きを隠せない。

 ……まぁ冷静に考えてみれば、地中にあるという時点で普通に行く事は出来ないんだけどさ。


「しかし、魔族領とドワーフの道が繋がっているというのは、どうしてなんだ?」

「それは今の魔族領の土地が、魔族領となる前から道が出来ていたからです」

「つまり、そこは元々どこかの国だったって事か?」

「国ではないのですが、我々ドワーフにとって大切な場所です。ですので、魔族領が出来て数十年……我々ドワーフはそこに行く事が出来ず、困っている者が大半です」


 なるほど。ドワーフの道は今も残っているが、魔物が現れるから行く事が出来ずに困っていると。


「ん? その道を通って、魔物が攻めてきたりはしないのか?」

「それは、大丈夫です。この数十年、一度もありませんでした。ただ、こちらから魔族領へ入ると、攻撃されますが」


 ふむ。専守防衛という事なのか?

 まぁこればっかりは、その魔族領を治めている魔族の性格によりそうだから、何とも言えないか。


「わかった。ありがとう」

「では話を戻しますが、その魔族領を魔族の手から取り戻す……事が出来れば最善ですが、流石にそんな事は言いません。……まぁ取り戻してくれれば、非常にありがたいですが」

「魔族領を支配する魔族を倒したら、ニナの故郷を探してくれるという認識で良いか?」

「流石にそこまでの言い方をしたつもりはなかったのですが、そう思っていただければと」


 魔族領で白虎を救出すると、ニナも家に帰す事が出来る。

 これは一石二鳥というやつではないだろうか。


「そうか。では、善は急げだ。今すぐ向かおう」

「えっ!? 今すぐ……ですか!?」

「あぁ。行ってくるよ」

「わ、わかりました。貴方たちが南の道を通れるように手配いたしますので、お名前を教えていただけますか?」

「アレックスだ。よろしく頼む」


 そう言って、執務室を出ると、すぐにトロッコへ。

 南の道への行き方を聞き、レールの切り替えとかをしてもらって、早速移動する。


「お、お兄さん。スピード出し過ぎだよーっ!」

「あ……すまない。ようやく白虎を救出出来ると思ったら、つい」


 ニナに注意されつつ、程々の速度で暫くトロッコを走らせていると、国境が見えてきた。

 いよいよだ……これでやっと白虎を救出できる。

 トロッコを減速させ、国境の門の前で止まると、これまで同様にドワーフの女性兵士たちが大勢出て来たのだが……出てき過ぎじゃないか?

 かなりの人数に囲まれたんだが。


「お前たち……この先へ進もうというのか?」

「あぁ。本部……ブランシャールの女王の許可は得ている」

「……ふむ。お前たちの代表の名は?」

「アレックスだ」

「……そうか。では、全員こっちへ来てくれ。あぁ、トロッコはそのままで構わない」


 なんだ? この門の先もレールは続いていそうなのだが、徒歩でしか行けないのだろうか。

 ある気よりも、トロッコの方が速いし、出来ればトロッコを使わせてもらいたいのだが。

 とはいえ、ここで揉めれば、余計に時間を費やすだけなので、素直に従って着いていくと、小さな部屋に通された。


「では、代表だという貴様だ。他の者は、別室にて待機してもらう」

「ん? 一体何をする気なんだ?」

「もちろん事情聴取だ。こんな夜中に、敵対国ドゥネーヴのトロッコで我が国へ入ろうとするなど、怪しいにも程がある」

「え? 敵対国!?」

「そうだ。そちらにもドワーフが居るし、知らないとは言わせんぞ!」


 兵士がそう言うと、後ろからニナの驚く声が聞こえて来たが……いや、ニナが知らない以上、ドワーフの国の関係なんて知らないって。

 確かに敵対国があるという話は銀の国で聞いたが、トロッコを借りた国とこの国が敵対している事を知らなかったと話したのだが、


「いずれにせよ、こんな夜更けに来るのは怪し過ぎるし、お前たちを通して良いか否か判断出来る方はもう就寝されている。今晩は、ここで一夜を過ごしてもらおう」


 牢屋に入れられてしまう事になった。

 というか、外に出ていなくてわからなかったが、深夜だったのか……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る