第907話 ジネットのスキル

 時間も時間だから……と、今日はニナの家に泊めてもらう事になった。

 地下の洞窟に住むドワーフ族だが、生活時間は外に合わせているそうで、照明として使っている光苔が黒い布で覆われていく。

 その布から僅かに淡い光が漏れている。


「ジネット。これくらいの暗さなら、目を開ける事が出来るのか?」

「そうですね。もう少し暗ければ……」

「これでも明るいのか」


 聞くところによると、土竜耳族もドワーフ族と同じように地中で暮らすのだが、ドワーフ族が外に出て活動する一方で、土竜耳族は殆ど外へ出る事がないそうだ。

 その為、視力が衰え、代わりに嗅覚と聴覚に優れているらしい。


「ですので、アレックスさんの事は匂いで位置がわかるんです。凄く美味しそうな匂いで」

「いや、俺は食べられないぞ?」

「でも、濃厚で美味しい液が……」

「げふんげふん。そ、そうだ。ジネットは何かジョブを授かっているのか?」

「はい……」


 あれ? 話がマズい方向へ向かいそうだったから、話題を変えたのだが、その途端にジネットの表情が暗くなってしまった。


「すまない。聞いてはいけないことだったのだろうか」

「えっと……アレックス様だけにお伝えしても良いでしょうか。その、私が奴隷にされてしまった理由でもあるので」


 ジネットに特殊な事情があるようで、俺と二人でリビングから奥の部屋へ。

 ニナが用意してくれた寝室で、先ほどの部屋より暗い……というか、殆ど明かりがない。

 だからだろうか。


「貴方が……私を助け出してくださった、アレックスさんなのですね」


 暗くて俺には見えないが、ジネットが目を開いたようだ。


「あぁ。ジネット、改めて宜しく頼む」

「はいっ! あの……アレックスさん。あの、美味しい液が出る棒はどこにあるのでしょうか? 今も香りはするのですが、見当たらないんです」

「いや、あれは……そ、それより先程の話は?」

「あ、そうでした。えっと、見ていただいた方が早いのですが、この明るさに目は慣れましたか?」


 部屋に入った直後は何も見えなかったが、ジネットの言う通り慣れてきたようで、シルエットは見えるようになった。

 ……それで気付いたのだが、ジネットは俺を嗅ぎすぎなんだが。

 後で風呂に入るから勘弁して欲しい。


「……こほん」

「あ、私の話ですね。私は石の精霊使いなんです」

「石の精霊使い?」

「はい。土竜耳族は誰もが土の精霊魔法を使えるものなのですが、何故か私は土の精霊魔法の一種である、石の精霊魔法だけしか使えないんです」


 石の精霊魔法……リディアのように、石の壁を出せるって事だよな?

 精度が低いものであれば、俺もリディアからスキルをもらったので出せるが。


「それが理由で奴隷にされた……のか?」

「はい。一族の誰もが使える土の魔法が使えない役立たずで、その一方で私たちには価値が無いのに、人間族には価値のある石を出す事が出来るので」


 そう言って、ジネットが俺の手を取る。

 どうしたのかと思ったところで、突然俺の手の上に何かが生み出された。


「これは……石?」

「はい。人間族がダイヤモンドと呼ぶ石の原石です。私は魔力を費やして、普通の精霊魔法では作り出せない宝石を生み出せるんです」


 なるほど。この力は悪党に狙われる訳だ。

 そして、ジネットの力は誰にも言わない方が良いだろう。

 俺の周辺には宝石に目がくらむような女性はいない……と思うが、聞けば気にする者はいるかもしれない。


「教えてくれてありがとう。この力を狙われて、今まで大変な目に遭ってきたんだな」

「はい……」

「わかった。これからは俺がジネットを守るから、安心してくれ。俺は守りのエキスパートであるパラディンだから」

「はいっ!」


 そう言ってジネットが抱きついてきて……


「あっ! 密着した事で、香りの位置がわかりましたっ! ここですねっ!?」

「って、ジネット!?」

「やっぱり! ふふっ、いただきまーす!」


 突然ジネットがしゃがみ込む。


「ふむ。そろそろ頃合い……うむ! 我の読み通りなのじゃ!」

「アレックスさん。私も!」

「お兄さん。ニナもニナもー」


 ミオやオティーリエが部屋に入ってきて……いや、どうしてこうなるんだよっ!

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