第906話 ニナとララの再会
「えっと、土竜耳族のジネットと申します。改めて宜しくお願い致します」
夕方に船がドワーフの国へ到着し、改めてジネットが皆へ挨拶する。
ちなみに、空は夕焼けに染まっているのだが、これでも明る過ぎるそうで、未だにジネットは目を開けていない。
なので、船底の大部屋から船を降りるまでは、オティーリエが衣服を整え、俺が手を引いて歩いてきた。
「ジネット殿はアレックスに会ったばかりで、しかも種族的にまだ顔も見れていない……という割には親し過ぎないか?」
「モニカよ。詳しい事は聞いておらぬが、元は奴隷にされてあったのじゃ。そこから助け出してくれたアレックスを慕うのは自然だと思うのじゃ」
「そ、そうか。し、しかし、それにしても、くっつき過ぎでは……」
モニカがいろいろ勘繰ってくるが、いやその……まだ目が開けられていないから、周囲の状況を声で判断するしかなく、不安なのだろう。
既にドワーフの女性たちも大半が自身の家に帰っていったし、言葉を交わした俺の側で安心したい……というはずだ。
……きっと。
「それより、早くニナの所へ行こう。きっとララを待っているはずだ」
「うんっ! そうだねっ! アレックスさん、行こー!」
ジネットとララが両腕に抱きつき、挟まれた状態でドワーフの国を進んで行き、ニナの家へ。
「あっ! ララお姉ちゃんっ!」
「ニナっ!」
先に家へ戻っていった女性たちが伝えていてくれたのか、家の前でニナとその家族が待っており、二人が抱き合う。
良かった。本当に良かった。
「お兄さん。ララお姉ちゃんを助けてくれて、本当にありがとう!」
「約束したからな」
「うん……ララお姉ちゃんに会えて良かった」
ニナが俺に抱きついて来たので、優しく頭を撫でていると、
「ララ! ララァァァっ!」
「お母さんっ! お父さんもっ!」
「ララ……あぁ、ララ。良く帰ってきてくれた。アレックスさん、この度は娘を助けてくださり、誠にありがとうございます」
ララの両親もやってきて、深々と頭を下げられる。
「しかし、アレックスさんには何とお礼を言って良いやら……我々に出来る事なら何でもさせていただきます」
「いえ、俺は当然の事をしたまでです。それに、俺もニナにとても世話になってきたので、そのお礼が出来て良かったなと」
「いやいや……」
ララの両親が何かさせて欲しいと食い下がる。
だが、別に何か見返りを求めて行った訳ではないので、どうしたものかと考えているも、ララがそっと耳打ちしてきた。
「……じゃあ、私とお母さんとニナでアレックスさんにご奉仕するとか……」
うん。普通にダメだから。
ララの母親もダメだし、父親にお礼の内容を伝えたら、流石に激怒するだろうし。
とはいえ、ララがむしろ乗り気なので、早急に何か考えないと。
「そうだ! 眼鏡はどうだろうか」
「眼鏡? お兄さん。何処かで目を怪我でもしたの? 視力は悪くないよね?」
「あぁ、俺が掛けるんじゃなくて、ジネットに使えそうな眼鏡がないかなって」
ニナが不思議そうにしているので、先ずはジネットを紹介し、暗い場所でしか目が開けられないという話をする。
「なるほどー。それは大変だねー」
「あの、アレックスさん。お話しから察するに、何かの報酬とかお礼をしてもらうのに、私に関するもので良いのでしょうか?」
「あぁ。ジネットを家へ送り届けるつもりだが、明るい場所を移動する事も多いだろう。見えた方が何かと便利だと思うしな」
「あ、ありがとうございます。土竜耳族は暗い場所では目を開けますが、それでも視力が良いという訳ではないので、実は凄く助かります」
「という訳で、このジネット用の眼鏡でどうだろうか」
中々に良い案ではないかと思い、ララの両親に提案してみると……あれ? 思いの外、悩んでいる?
もしかして、かなり無茶振りだったのだろうかと心配していると、
「眼鏡……使用者に合ったデザインが求められ、かつ医療的な制約があり、軽量化が求められる、細工師としての高みの一品! 流石はアレックス殿! ふふふ、燃えてきた……アレックス殿! その依頼、お受致します! 最高の一品を仕上げてみせましょう!」
ララの父親が叫び始めた。
あー、ドワーフって職人気質だっけ。
職人魂に火をつけてしまったみたいだが、ジネットの助けにもなるので、是非……と、お願いする事にした。
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