第100話 五回目の奴隷解放スキル

『エクストラスキル≪奴隷解放≫のクールタイムが終了しました。再使用可能です』


 人形たちとおままごとをした翌日、奴隷解放スキルが利用可能となった。

 リディア、ニナ、ノーラ、メイリンも来て、五回目の召喚となるので、魔族領へ来てから約一ヶ月が経った事になる。

 思えば、この一か月で……いろいろ有り過ぎたな。

 これまでに起こった事を思い返しつつ、このスキルの事を知らないサクラとソフィに説明する。


「なるほど。それでメイリン様が……偶然ではあるものの、仕える拙者としては、非常に有難い事でした。改めて、お礼を言わせていただきます」

「流石マスターですね。そのような、常識外れなスキルを使えるなんて」


 常識外れ……いやまぁ、神のスキルとかって言わている程だし、確かにそうなんだけどさ。

 一先ず、スキルの説明を終えた所で、奴隷にされている人を助けるべく早速使用する。


「≪奴隷解放≫」


 その直後、白い謎の塊が床に現れた。

 丸まった白い塊は、よく見ると一部肌色の箇所と金色の箇所があって……これは金色の髪の毛か?

 よく見ると、白いのは羽に見える。肌色の箇所は背中と……お尻?

 金髪で、白い翼が生えた人が、三角座りになり、その翼で自分自身を覆って小さくなっている……といった所だろうか。


「えっと……大丈夫か?」


 恐る恐る声を掛けてみると、羽に包まれた中から、金髪の頭が出てきて……幼さの残る少女の顔と目が合った。


「……え? だ、誰ですか!?」

「俺はアレックス。パラディンだ。あるスキルで君を助けだした……」

「パラディン! つまり聖騎士……神に仕える者! た、助けてくれたの!?」

「あぁ。ここには君に危害を加える者は居ないから安心して……」

「わぁぁぁ……ありがとぉぉぉっ!」


 まだ話途中なのだが、少女が立ち上がると、泣きながら抱きついて来る。

 すぐに抱きつかれてしまったが、一瞬見えた姿は……天使だった。

 実際、少女の背中から大きな白い翼が生えて居るし。

 天使みたいな小柄な少女は、俺の胸に顔を押し付けて泣き続けていたが、


「……うぅ。あの、本当にありがとう。私は、天使族のユーディットっていうの。もう、どれくらい前の事か分からないくらい前に、悪い人間族に捕まっちゃって、ずっと閉じ込められていたの」


 暫くして泣き止み、ようやく顔を上げてくれた。


「人間に……同じ人間として、申し訳ない」

「ううん。こうして助けてくれたのも、人間の……アレックスだもん。ありがとっ!」


 そう言って、再び俺に抱きついて来たのだが、


「あの、ユーディットちゃん。助けてもらったから……っていう気持ちは分からなくもないけど、ちょーっとアレックスにくっつき過ぎじゃないかしら?」

「あ! 私ったら……ごめんなさい。あの牢屋から出られたのが嬉しく……て!?」


 エリーに指摘されてユーディットが離れる。

 だが俺から離れ、羽を開いたユーディットは全裸で……


「きゃあぁぁぁっ!」


 慌ててその場にしゃがみ込み、翼で身体を包み込む。


「あぁぁぁ……そうだ。私、ずっとアレを作らされていたから……」

「アレ?」

「な、何でも無いのっ! け、けど、アレックスは私の恩人だし……あ、あのね。私の……というか、天使族が皆持っている神のスキルっていうのがあって、私はある物を作る事が出来るの」

「そ、そうなのか?」

「うん。そのある物を得る為に、悪い人たちに捕まっていて、毎日それを作らされていたの」


 何を得ようとしていたのかは知らないが、幼い天使族の少女が奴隷にされ、毎日作らされていたなんて。

 一先ず、タバサから定期便で送られてきていた服の中から、サイズが合いそうなワンピースをユーディットに渡して……翼があるから普通の服は着れないのか。

 とりあえず、スカートとタオルを渡し、極力ユーディットの方を向かないように気を付けながら話す。


「ユーディット。一先ず、これからはそんな物を作ったりしなくて良いからね。すぐにとは約束出来ないけど、必ず家に帰す……って、ユーディットは空を飛んで家に帰れるのか?」

「ここが何処なのかにもよるかな。私、長年閉じ込められていたから、長距離を飛んだり出来ないと思うし」

「ここは、第四魔族領のどこかなんだけど……」

「んー、ごめんね。第四魔族領って言われても、わかんないや」


 まぁそうか。俺だって、第四魔族領って言われても、具体的にどこ……とは言えないしな。

 一先ず、ユーディットについては、暫くここで空を飛ぶ練習をしてもらい、帰れそうなら帰ってもらうのが良いだろう。

 自宅に帰り、家族と共に過ごしたいだろうしな。


「あ、あの……アレックス。話は変わるけど、助けてくれたお礼をしたいの」

「お礼? いや、そんなの別に良いよ。俺はただスキルを使っただけだし」

「でも、さっき言った人間たちが欲しがっていた物……これは、魔物除けの材料になったり、武器を強化したり、高位魔法の媒体に出来たりと、凄く重宝するんだって。だから、これを受け取って欲しいの」

「だがユーディットは、それを無理矢理作らされていたんだろう? せっかく自由になったんだ。嫌な事はしなくても良いよ」

「あ、ちょっとだけ違ってて、それは天使族が生きているだけで、勝手に作れちゃうの。だから気にしないで。えっと、何かビンとかカップとかを借りられないかな?」


 ユーディットの言葉でノーラが木のカップを渡すと、「少しだけここで待ってて。あと、絶対に覗かないでね」と言って、別の部屋へ。

 少ししてユーディットが戻って来ると、


「あ、あの。私の……天使族の『聖水生成』スキルで作った聖水なの。アレックス、受け取って」


 透明な液体が並々と注がれた、ほのかに温かいカップを差し出される。

 聖水生成スキルで作った聖水って……と、思わずモニカと目が合いつつも、


「あ、ありがとう。た、大切に使わせてもらうよ」

「ううん。アレックスへの感謝の気持ちだもん。これから、毎日プレゼントするね」


 空気を読んで受け取ってしまった。

 や、やっぱりこの液体って、ユーディットのアレなんだよな……。

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