第684話 カタコンベに居た者

「ご主人様! 見える範囲に居たスケルトンの群れを殲滅しました」

「運動にもならなかったね。砂漠を歩いて来た時の方が汗をかいたよ」

「物理攻撃が通る相手……余裕ですね」


 モニカ、ザシャ、グレイスがスケルトンの群れを倒し、戻ってきた。

 それから、一応建物の中を軽く調べたのだが、


「ファビオラやミオの言う通り、墓以外は何も無さそうだな」


 特に何も見つからず、地上へ戻る事に。

 ところが、建物の出口に何か気配がある。

 これは……ゴーストではないな。


「パパ……」

「ユーリも感じたか。≪ホーリー……」

「ま、待って! うぅ……私は悪霊とかじゃないのっ! 話を……話を聞いてよっ!」


 出口の側に感じた気配に向けて、パラディンの攻撃スキルを放とうとした所で、赤い目の女性が姿を表す。

 だが、その姿は半透明で、明らかに普通の女性ではない。


「ふむ。こいつは、バンシーという奴なのじゃ。子供を出産する際に亡くなってしまった女性が、こうなる事があると聞いた事があるのじゃ」

「そう、それっ! その狐耳ちゃんが言った通りで、数十年前に死んでしまって、成仏出来ずにずっとここに居るだけなんです」


 ミオにバンシーだと言われた女性が、涙目玉で必至に頷く。

 確かに、敵意や害意は感じないので、このバンシーの言っている通りなのかもしれないな。


「わかった。ではユーリにさっきの天使族の魔法を使ってもらって……」

「ちょ、ちょーっと、待ってください! 違うんです! 私、確かに成仏したいんですけど、その前にどうしてもやりたい事があるんです」

「ん? というと?」

「先程、狐耳ちゃんが言った通りで、私は元々、この地に住んで居た普通の獣人なんです。夫と恋愛して、結婚して、出産する事になって……それが、この有様なんですけど」


 これはもしや、夫や子供に会いたいという事なのだろうか。

 数十年前に亡くなったと言っていたが……見つけるのは、かなり大変な気がする。


「そ、そこで……ですね。お願いと言うのが……」

「貴女の家ぞ……」

「そう。私を満足させて欲しいんですっ!」

「えっ!?」

「えっ!? 何ですか?」


 んん? 俺の予想と全く違う言葉が聞こえてきたんだが。


「私、亡くなった時は成人になったばかりなんです! 男性を知り、天にも昇る気持ちになって……でも、こんな身体になってしまって、数十年モヤモヤしっぱなしなんです! お願いします! せっかく、男性が居る事ですし、私を……私を逝かせてくださいっ!」

「えぇ……いやその、俺はパラディンなので、不死系には耐性があるから、近付くだけでも辛いと思うんだが」

「なるほど。でも、こんな所へ来て、平然としていられる男性なんて、今まで殆ど居なかったんです! 多くの人は、遺体を建物内に投げ込んだら逃げるようにして去って行って……そして、十数年前からは、もう誰一人として来ていないんです!」


 あー、このカタコンベは、昔は利用されていたものの、今は使用されていないって事なのか。

 確かに、周辺に何も見当たらなかったからな。


「お願いします! どうか……どうか!」

「いや、そう言われても、さっき言った通りで、俺はパラディンで……」

「そうだ! では、これだけ大勢の女性が居るんです! 一人くらい、私と魔力的に相性の良い女性が居るはず! ちょっと身体を貸してくださいねー!」

「え!? いや、待った!」


 だが、俺が止めるよりも早く、バンシーが近くに居たミオに近付き……弾かれた。


「えぇ……この狐耳ちゃん。見た目と中身の魔力が合ってないんですけど! というか、見た目は子供なのに、中身の年齢が……」

「お主。我の力で、この辺りに居たゴーストと同じように、消滅させてもよいのじゃぞ?」

「ま、待ってください! お願いします! えっと、えっと、そっちの天使族ちゃんは絶対に無理だし、こっちの人は……ひぃぃっ! 魔力が私よりも遥かに黒過ぎるっ!」


 バンシーがユーリやザシャに近付こうとして、即座に逃げたかと思うと、


「あ! この人! 絶対にこの人です! 凄く相性が良い気がします!」

「は!? いや、ちょ……こらっ!」

「少しだけ……少しだけ身体を貸してくださいっ!」

「ば、バカ者っ! ……あぁぁぁ、入ってくるなぁぁぁっ!」

「……うん。良いですね。ただ、ちょっと胸を露出し過ぎですが。……という訳で、お兄さん。よろしくお願いいたします」


 バンシーに身体を乗っ取られてしまったのか、モニカが変な喋り方になってしまった。

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