第685話 ドン引きバンシー

「うふふ。さぁお兄さん。この女性に好きな事を出来るチャンスですよ!」

「いやあの、好きな事と言われても……」

「今は、この身体を私が制御しているんです。何をしても怒りませんよ? あ、でも、痛いのはイヤかも」


 そう言って、モニカ……の中に居ると思われるバンシーが、クネクネと変なポーズを取る。

 これは一体、何のつもりなのだろうか。


「ふふっ。ちょっとエッチな格好をし過ぎましたね。でも、早く私を満足させないと、この女性にどんどん激しい格好をさせちゃいますよ?」


 そんな事を言いながら、モニカが両腕を組んで胸の谷間を強調するが……普段のモニカは人前でも、例え街や村の中でも平気で全裸になるんだが。


「……バンシーよ。残念なのじゃ。お主が今操っている女は、その服装から見ても分かる通り、普段からもっと露出が激しく、過激な格好をしておるのじゃ」

「えっ!? い、今のよりも!? うぅ……もしかして、私が入ってしまったこの女性って、変態なのっ!?」

「うむ。だから、その程度でアレックスを誘惑しようなどとは、笑止千万なのじゃ」

「そ、そんなぁ……で、でも負けないんだからっ! この千載一遇のチャンスをものにするのっ!」

「まぁ、とりあえずここから外へ出ぬか? このような場所よりも、明るい外の方がアレックスも気分が乗るかもしれぬのじゃ」

「なるほど。一理ある……そうと決まれば、早速外へ行くわよっ!」


 ミオの言葉で、モニカがスキップしながら階段を上がって行く。


「ミオ。モニカの身体が、さっきのバンシーに乗っ取られているという話だが、モニカは大丈夫なのか?」

「うーん。流石に、このような現象を見るのは初めてなのじゃ。だがまぁ、大丈夫であろう。いざという時には、天使族の力で浄化するのじゃ」

「そうだな。モニカをパラディンのスキルで攻撃する訳にはいかないし、もしかしたらユーリに任せるかもしれな……って、いやダメだろ」


 あのバンシーは、アレな事をしたいと言っているのに、万が一の場合に天使族の浄化魔法を使ってもらおうと思ったら、ユーリを近くで待機させるという事になる。

 ユーリとディアナには、そんな行為を絶対に見せられない!

 何とか……何とかアレ以外の方法を取る事は出来ないのだろうか。


「ユーリ、ディアナ。悪いが少し先に行って、モニカの様子を見て来てくれないか?」

「はーい!」

「いいよー! にーにも早く来てねー!」


 二人がモニカに続いて階段を上がって行ったので、早速残った女性陣に声を掛ける。


「……という訳で、モニカが大変な事になってしまったのだが、何か救出する案は無いだろうか」

「え? アレックスがいつも通りにすれば良いだけだと思うんだが。ユーリとディアナなら、私が闇を展開するぞ?」

「うむ。それに加えて、我が結界を張るのじゃ。消音の結界も重ねておくので、何の気兼ねも無く、本気でやると良いのじゃ。あ、当然我も交ぜてもらうのじゃ」


 ザシャとミオが、何を言っているんだ? とでも言いたげに口を開くが、やはりその方法しかないのか?

 というか近くに街や村……いや、せめて水が確保できる場所が良いと思うのだが。

 しかし、そんな心配をしているのは俺だけらしく、ファビオラとシアーシャからもここで良いのでは? と言われてしまう。

 唯一、グレイスだけがこの場から離れたいのか、街を探す事に同意してくれたが。


「きゃぁぁぁっ!」

「――っ!? 今のは、モニカの声っ!」


 しまった! パラディンの防御スキルを使用しているから大丈夫だと考えていたが、今のモニカは通常とは異なる。

 俺の防御スキルも正常に機能していない可能性があるという事に、考えが及ばなかった!

 反省しつつも、大慌てで階段を登って外へ出ると、


「お、お兄さん。このモニカって人……パンツを履いていませんっ! ほ、本当の本当に変態ですっ!」


 バンシーが、モニカの短いスカートを一生懸命伸ばして、脚を隠そうとしている。


「……先程も言ったが、その女は変態なのじゃ。悪い事は言わぬ。一旦、その身体から出た方が良いと思うのじゃ」

「そ、そうかも……って、どうやって出るのっ!? 人の中に入ったのも、これが初めてだから、出る方法がわからない……お、お兄さん! 早く私を逝かせてくださいっ!」

「にーに。さっきのバンシーさんは、どこに行くの? にーにが何処かへ行くなら、ウチも一緒に行くよー!」


 ミオの言葉で涙目になるバンシーと、無邪気に抱きついてくるディアナ。

 一体、どうするのが正解なんだ……。

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