第420話 六合教と闇ギルド

 とりあえず、司祭と呼ばれていた男に治癒魔法を使い、一命を取りとめた……って、そこまで瀕死だったのだろうか。

 まぁそれはさておき、物凄く怯えた表情で黙っているので、ようやく会話が出来そうだ。


「さて、お前は司祭と呼ばれていたが、司祭の別名であるビショップのジョブを授かっているという事で良いか?」

「ち、違いますっ! いえ、六合教の司祭ではありますが、ジョブはビショップではありません」

「そうか。なら、プリーストだったりするのか? というかジョブは何でも良いんだが、高位の治癒魔法は使えないのか?」

「つ、使えません。私は六合教の教会へ来る、ジョブチェンジをしたいという者を導き、管理しているだけですから」


 うーん。話し易くはなったが、媚びへつらうような感じで……人は、こうも変わるのか。

 なんだかなぁと思っていると、イライザが割り込んで来る。


「あ! ジョブチェンジはこの人に言えば良かったんですね! 私、ジョブチェンジしたくて、このシーナ国まで来たんですよ!」

「そ、そうですか。では一緒に奥へ……」

「ところで、料金ってこれくらいで足りますか? グレイスと二人で一生懸命節約しながら貯めたんですけど」


 そう言って、イライザが恐る恐るといった様子で金貨を出す。

 二人で貯めたと言うが、結構な金額だな。


「……料金!? 司祭さん……料金とは何の事ですか? 私は公平を司る者。望む者には平等に機会を授けます。それに対価などを一度も求めた事はありませんよね? 私の力を使って、金儲けをしていたという事ですか?」

「こ、この教会の維持の為です! 仮に貴女が本物の六合様だとして、豪華な教会の方が良いでしょう?」

「豪華である必要はありません。公平に一般的な普通の教会で良いのです。……ふむ。なるほど……司祭さんは、ジョブチェンジに高額な料金を請求し、しかも聖女となったこのクララを、自身の金儲けの為に働かせているのですね」

「な、何故それを……」

「公平を司る私は、隠し事を察知する力を持ちます。どうやら貴方は、司祭を名乗る資格は無さそうですね。ジョブも商人ですし」

「くっ……ワシが商人だというのはずっと隠していたのに! わ、わかった。ワシはこの教会を去る。だから、許してください」


 なるほど。この男は、六合の力で勝手に商売していたのか。

 司祭でも何でもなくて、これまで六合の存在すら感じていなかったと。

 まぁ俺も六合が姿を現すまでは何も感じなかったが……リディアやミオ、ヴァレーリエやレヴィアあたりだと魔力を感じる事が出来るので、姿を現わす前から気付けたんだろうな。


「……待った。六合、この教会と闇ギルドの繋がりについて、調べてもらいたいんだが」

「闇ギルド? ワシはそんなもの知りませんぞ!?」

「……うん。本当に知らないみたいね。隠していないわ」


 え? いやしかし、ウラヤンカダの村は六合教が作った村なんだろ?

 借金がある女性ばかり送りつけてさ。

 ……その女性たちを俺が全員雇ったはずが、何故か全員従業員ではなく妻になってしまったが。


「お兄さん、待って。その六合さんの力は本物っぽいから、その男が闇ギルドを闇ギルドだって認識していないんじゃないかしらー」

「あー、なるほど。では、この教会と繋がりのある組織について喋ってもらおうか」


 カスミの言葉を聞いて質問内容を変えると、男が顔を歪ませる。

 この男自身は喋る気は無さそうだが、だがここには六合が居るからな。


「……あ、それならこの男に喋らさなくても、沢山見えたわ。だけどこの男も、詳しくは知らないみたいね。どうやら別に、そういう他の組織との繋がりを専門で担当している者が居るみたいね」

「その者がどこの誰というのは分かるか?」

「えぇ、もちろん。いつも決まった時間に、こことは違う建物で教会の幹部? が集まって話をしているみたいね」


 六合からその場所と時間を教えて貰い、一網打尽にする事に。

 一先ず、この男はミオの結界スキルで動けないようにしたまま、適当な小部屋へ閉じ込めておく事にした。

 さて、まだ気を失っている女性たちを起こしていこうかと思ったところで、


「あ、あのっ! 私の事、忘れていませんかっ!? ジョブチェンジさせてくださいっ!」


 イライザが涙目で懇願してきた。

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