第731話 祝福
この中に妊婦がいる。
という訳で、急ぎつつも、石や窪みを避け、極力馬車が揺れないように引いていく。
ちなみに、ユーリのこの話のおかげで、皆がそわそわしており、大人しく馬車の席に座っている。
……流石にディアナとツェツィは普段通りだが。
そんな中、
「ん……おはよー」
ユーリが目を覚ます。
「ユーリ殿。何か私に言う事は無いだろうか!」
「ユーリちゃん。私に何か言う事はない?」
「ユーリちゃん。私、ママになったのかしら?」
目を覚ますと共に、モニカ、グレイス、ナターリエがユーリの許へ。
「ママー。ママはもうツェツィのママだよー?」
「そうなんだけどね、ツェツィちゃんに妹か弟……出来れば妹が欲しいなーって思ってるの」
「妹!? ツェツィに妹が出来るの!?」
「お父さんが頑張ってくれたらね」
「お父さん! 頑張って! ママと妹を作ってー!」
いや、あの、俺は一体何の応援をされているのだろうか。
「あ! もしかしてツェツィちゃんは、子供の作り方を知ってるのー?」
「え? ……う、うん」
「じゃあ、ウチに教えてっ! さっき、にーにに聞いたんだけど、教えてくれなかったんだー!」
いやいや、ディアナはツェツィに何を聞いているんだよっ!
あと、ツェツィは知っていて、あんな事をしていたのか!?
「えっとねー、男の人と女の人がチューすると、子供が出来るんだよー!」
「えぇっ!? そうなのっ!? じゃあ、ウチはにーにとチューしたから、ウチのお腹の中にも、にーにの子供が居るのっ!?」
「あ、でも、チューした後に、天使族さんが赤ちゃんを運んで来てくれたら、子供が出来るんだってー! だから、ユーリちゃんしだいかなー」
「ユーリちゃん! ウチも、にーにの子供が欲しいっ! ちょうだいっ!」
うん、ある意味で良かった。
ツェツィは変な事を知らず、無垢だった。そして、ツェツィの話をそのまま信じたディアナも。
ただ、ユーリがメチャクチャ困惑しているが。
ひとまず、俺も気になるので、馬車を引きつつ、ユーリに聞いてみる事に。
「ユーリ。この中に、妊娠している者が居ると聞いたのだが……」
「うん、ひとりいるのー! でも、ほんにんは、きづいていないのー!」
「それは、言ってしまうのはマズいのか? 俺としては、妊娠しているのであれば安静にしてもらいたいので、知っておきたいのだが」
「んー、ほんにんがいいよーっていったら、いいかな」
なるほど。
という訳で、今度は皆に問いかける。
「ユーリの話の通り、この中に妊婦がいるそうだ。もしも自分だった場合、公表しても構わないという者は、挙手を頼む」
そう言うと、ユーリ以外が全員手を上げる。
とりあえず、モニカやナターリエはユーリに迫らないように。困ってるから。
「じゃあ、いっちゃうよー? あのね……ヴァレーリエのおなかに、いのちがめばえてるのー」
「……えっ!? ほ、本当!? ウチに!? …………やったぁぁぁっ! ついにアレックスの子を授かったんよ! そして、レッドドラゴンの繁殖の第一歩なんよ!」
ヴァレーリエが嬉しそうに喜び、そのまま俺のところまでやって来る。
走らない辺り、大事にしてくれていそうで何よりだ。
「アレックス。まずは一人目……あと、二十人お願いするんよ」
「いや、多いが……おめでとう! そして、良かった。まずは第一か第四の魔族領で安静にして欲しい」
「そうね。最初の一人……ウチは初めての出産だし、分からない事だからけだしね。アレックス……ううん。あなた、ウチに子供を授けてくれて、ありがとう」
ヴァレーリエが俺に抱きついて来て、皆がヴァレーリエに祝福の声を掛ける。
「ブラックドラゴンを倒して、ヴァレーリエから復習心が消えたから……かもしれないな。何にせよ、良かったよ」
「ヴァレーリエ殿、おめでとう! くっ……私では無かったか。やはり後ろでし過ぎか。だが、ハマってしまって……」
「えぇー! ウチじゃないのー!? にーに、ウチもにーにの子供が欲しいー! チューしよーよー!」
いやあの、ザシャはともかくとして、モニカは何を言っているんだ? あと、ディアナはやはり誰かにちゃんとした知識を教えてもらおうか。
ひとまず祝福ムードのまま南へ進み……魔族領を見つけられないまま荒野を抜け、砂漠に来てしまった。
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