第730話 静かに出発

 来た時と同じようにユーリ抱きかかえ、ディアナを肩車して馬車へ向かう。

 ただ、ディアナの父親が実の父ではなく、しかもかなりのクズだという事が判明してしまった。

 そのため少し心配していたのだが、


「大丈夫だよー! にーにが、ウチの事を奥さんの一人って認めてくれたもん! だから、ウチの帰る場所はあの村ではなくて、にーにが居るところだもん!」

「そうか、わかった。ディアナは俺の傍に居てくれ」

「うんっ!」


 どうやら大丈夫なようだ。

 まぁ俺に気遣って、平気な振りをしているという可能性もあるので、暫く様子は見ようと思うが。


「ふふっ、にーにのお嫁さんかぁー。ナターリエみたいに、あなたって呼んだ方が良いー?」

「……い、いや、今まで通りで良いんじゃないのか?」

「そう? じゃあ、そうするねー!」


 気遣っている訳でもなく、普通にご機嫌な感じがするな。

 これなら本当に大丈夫か。


「あ、そうだ! にーに! ウチはにーにのお嫁さんなんだよね?」

「あぁ、そうだよ」

「じゃあ、さっき言ってた、子作りっていうのをしてよー! それをすると、ウチのお腹の中に子供が出来るんだよねー?」

「――っ! あー、うん。そ、そうだな。そのうち……」

「えーっ!? やだー! 今すぐしてみたいー! にーにの子供が欲しいー!」


 だ、誰か……誰かにディアナへの教育を頼まなければ。

 かつてエリーにフィーネへの教育を頼んだ時は失敗だったので、適任な者をちゃんと厳選しないとな。

 今馬車に居る者だと、母親であるナターリエが最適なはずなんだが……何故か任せてはいけない気がする。

 だが、そんな事を考えている間も、ディアナが俺の頭に全身で抱きつき、


「にーに! 子作りー! ウチと子作りしてよー!」

「ねぇねぇー! じゃあ、やり方を教えてー!」

「ここじゃダメなのー? 子作りするには、場所とか時間が決まってるのー?」


 ディアナがそう言いながら、耳元でお願いしてくるのだが……うん。とりあえずスルーだな。

 ただ、ディアナが俺の頭に抱きついたりスリスリしたりしているからか、来た時以上に周囲から視線を感じるのだが。


「あの子、発情期なのかしら? でも、発情期が来るにはまだ早いような……」

「あらあら、大変ねー。かなり若いけど、お父さん? 恋人ではない……わよね?」

「というか、人間族!? じゃあ、父親って訳ではないから……このあとメチャクチャ子作りするのね?」


 ……って、獣人族は耳が大きいから耳が良くて、周囲の人にディアナの声が聞こえているのか!

 大通りのベンチに座っていた獣人族の女性たちの会話が聞こえ……よし、逃げよう。


「わっ! にーに!? 駆けっこするの? ウチもしたいけど……街の中だと、本気で走れないよー!」


 街中なので、早歩き程度の速度で大通りを抜け、逃げる様にして馬車の中へ。


「あなた、お帰りなさい……あ、あの。愛してます。どうか、ずっとお傍にいさせてください!」

「ナターリエ!? 目が覚めたのは良いが……ど、どうしたんだ? もちろん、傍に居て構わないのだが」

「あ! お父さん、お帰りなさーい! あのねー、さっき眠っていたお母さんが起きたんだけどー、ずっと目がハートっていうか、ポワポワしているっていうか……とにかくお父さんの帰りをずっと待っていたのー!」


 ナターリエは一体どうしてしまったのだろうか。


「……あれだけ激しくすれば、仕方ないのじゃ」

「次は私もしてもらわないとねー。ナターリエだけズルいし」

「くっ! 新しい馬車プレイをしていただけるチャンスだったのに、気を失っていたとは……なんたる不覚っ!」


 何故かミオ、ザシャ、モニカが呆れていたり、羨ましがっていたり……一体何を言っているのだろうか。

 ひとまず、全員起きているようなので、ディアナを馬車に乗せて出発する。


「あなた。分身……分身は出さないのかしら?」

「いや、出さないから。普通に移動するってば」

「えぇー! 何だか皆の話を聞いていると、ナターリエだけ楽しんだっぽいんよ。ズルいんよ」


 俺から離れようとしないナターリエに続き、ヴァレーリエまでやってきた。

 ひとまず、分身は出さないと宣言し、地面の凹凸をしっかり避けて、静かに馬車を引いていく。


「ん? この街へ着くまでは荒々しかったのに、どうしたんよ?」

「いやその……ユーリによると、妊娠している者が居るという話だったから」

「えぇっ!? もしかして……ウチ!? いやん、それなら仕方ないんよ」


 俺の言葉でヴァレーリエがクネクネと身体を動かし、シアーシャやグレイスが自分のお腹に手を当てる。

 ユーリがまだ眠っているから、誰が該当者なのかはわからないが、心当たりがあるのは……ユーリ以外全員だと気付き、何も言えなくなってしまった。

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