第732話 新・砂漠の進み方

「また砂漠か。流石に馬車を走らせるのは無理か」


 魔族領が南にあるという情報を元に、ずっと下って来たが、砂漠に出てしまった。

 馬車を購入してから、移動が随分と楽になっていただけに辛いところだな。

 それに、妊娠が判明したヴァレーリエを歩かせなければならないというのもな。


「アレックス。ウチなら大丈夫なんよ。元々空を飛んだりする種族だし、身体は丈夫なんよ」

「だが、妊娠初期が一番大事だとエリーから口をすっぱくして言われているからな」

「そ、それなら、アレックスがウチを抱きかかえて歩いてくれると良いんよ。そして、アレも一緒にくれると、更に良いんよ」


 ん? ヴァレーリエの言うアレとは何だ?

 歩きながら渡す俺のアレとは何だ?

 だが、今のヴァレーリエの言葉で良い方法を思いついた。


「ヴァレーリエ、ありがとう。今ので砂漠を進む良い方法を思いついたよ」

「どういたしましてなんよ。じゃあ、早速分身するんよ」

「そうだな。≪分身≫」


 早速分身を一体出すと、ヴァレーリエが意外そうに首を傾げる。


「ん? アレックス。一体しか分身を出さないって事は、ウチともう一人だけ? まぁナターリエは気絶していたって聞くし、アレックスの本気に耐えられそうなのは、ウチを除けば……ミオかザシャかモニカくらい?」

「ん? 何の話だ?」

「え? アレックスがウチと誰かを抱きかかえて、子作りしながら砂漠を進むんでしょ?」

「いや、どうしてそんな話になるんだよ。とりあえず、出発するからヴァレーリエも席に着いてくれ。そうだな。万が一の場合に治癒魔法が使えるユーリの隣が良いかな」

「え? アレックスは一体何をする気なの?」


 不思議そうにしながらも、ヴァレーリエが席に着いたので、分身に視点を切り替えると、馬車の真後ろへ。

 これで準備は整ったので、あとは俺の本体に視点を戻し……さて、行くか。


「よっ!」

「えぇっ!? アレックス!? これ、大丈夫なの!? 特に後ろの分身とか、勝手に暴走したら落ちちゃうわよっ!?」

「あぁ、大丈夫だ。分身は自動行動にしなければ、俺と同じ動作をするからな」


 という訳で、俺が馬車の前方を持ち上げ、分身が後方を持ち上げた。

 そのまま砂漠へ突入するが、ディアナから貰った地上地形効果無効スキルのおかげで砂に足を取られる事もなく、普通に進んでいける。


「アレックス様、凄いです! あんなに辛かった砂漠を楽々と」

「これはありがたいですの。砂漠は……正直言って、かなりキツいですの」

「うーん。確かに楽ではあるが、私としては青空の下で開放的になり、汗まみれのくんずほぐれつに、ご主人様から子種を注いでいただきたかったのだが……」


 やはりグレイスやシアーシャは砂漠が辛かったんだな。

 これまでかなり移動させてしまって申し訳ない。

 あと、モニカは何を言っているか分からないので、ひとまずスルーで良いだろう。

 少し急ぎつつも、極力揺らさないように気を付けながら魔族領を目指して進み……何故か海が見えてしまった。


「どういう事だ? 南に魔族領があるという話だったのに」


 一旦、馬車を地面に置き、どういう事かと考えていると、ナターリエがやって来た。


「……あなた。南に魔族領があるっていうのは、誰の情報なの?」

「西大陸の中心部のカタコンベに居たバンシーだ。魔族領はもっと下だと……ん? まさか……」

「うん。下って、地下って意味じゃないかしら? 西大陸にはドワーフの国もあるって聞くし」

「えぇっ!? そうなのかっ!? じゃあ、ニナを家に帰してあげられるかも……って、魔族領の事を考えたら、自ら遠ざかってしまったのか」

「でも、そのおかげで私やツェツィは助かったわ。あなた、ありがとう」


 そう言って、ナターリエが抱きついてくる。

 確かに、そういう意味では俺が勘違いして良かったと言えるのだが……ま、まぁ良かったという事にしておこう。


 魔族領の事だけを考えれば、このまま回れ右して戻るべきたのだろうが、せっかく海の目前まで来たので、グレイスに船を出してもらい、一旦出直す事にした。

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