第541話 力を求めるラヴィニア

「ラヴィニア……≪ミドル・ヒール≫」

「え? あなた? どうして治癒魔法を私に?」

「いや、ラヴィニアがずっと動かないというか、固まっていたから」

「あ、ごめんなさい。ちょっと考え事をしていて」


 治癒魔法を使用すると、ラヴィニアが気付き、話に応じてくれた。

 ミドル・ヒールでダメだったら、次は状態異常を回復するリフレッシュを試すつもりだったので、ラヴィニアが状態異常などではなく、考え事をしていたというのは本当だろう。

 しかし、こんなに至近距離で呼び掛けていたのに気付かないなんて、ラヴィニアは一体何を考えていたのだろうか。


「ラヴィニア。本当に大丈夫なのか?」

「はい。もう……大丈夫です」

「そうか。とりあえず、一旦船に戻ろうか」

「わかりました」


 一旦全員で船へ戻ると、嬉しそうにレヴィアがやって来た。


「アレックス。探索は終了?」

「いや、少し休憩にしようと思ってな」

「じゃあ、アマゾネスの村へ転移?」

「それは休憩にならないと思うのだが」

「えぇー」


 何かを期待していたらしいレヴィアが、頬を膨らませて不貞寝し始めた。

 うーん。レヴィアは船を引いてくれて、北の大陸へ来てから、一番頑張ってくれているからな。

 レヴィアを労うべきなのだが、アレばかりというのもどうかと思う。


「そうだ。俺たちは暫くここで休憩しているから、たまには船を引かずに、のんびり自由に泳いできたらどうだ?」

「んー……ゴロゴロしているよりかは良いかも。泳いでくる」

「あぁ。だが、余り遠くへ行きすぎないようにな」


 まぁ俺の思う遠くと、レヴィアの遠くではかなり差がありそうだが。

 レヴィアが船から海へ飛び込み、みるみる内に大きな海竜へと姿を変える。


「――っ! レヴィアタン!」

「どうしたんだ? ラヴィニアがレヴィアの事を、レヴィアたんって呼ぶのは珍しいな」

「違いますっ! レヴィアタン……人魚族でリヴァイアサンとも呼ぶ、海の悪魔っ! それがあの巨大な海竜なんですっ!」

「海の悪魔……って、レヴィアだろ? ここまで俺たちを運んで来てくれたじゃないか」

「そうですけど、違うんですっ! 先程話した人魚族の引っ越しの時に、私を攫った悪魔……私はこのリヴァイアサンに操られ、十年以上家族と離れ離れになっていたんですっ!」


 海の中をのんびり泳ぐレヴィアと、その一方で、怒りの形相で海に飛び込むラヴィニア。

 竜人族であるレヴィアが悪魔だというのは、まだ理解出来ていないが、ラヴィニアがレヴィアに明かな敵意を抱き、攻撃しようとしているのは分かる。

 だが人魚族であるラヴィニアと、竜人族であるレヴィアが戦えばどうなるかは、火を見るよりも明らかだ。


「待つんだラヴィニア!」

「……≪水の刃≫」


 俺の制止を聞かずに、ラヴィニアが水魔法でレヴィアを攻撃する。

 だが、案の定レヴィアには効かず……どうやら攻撃された事に気付いてすらいないようだ。


「くっ……私に力が無いから。もっと強い攻撃を……」

「ラヴィニア! 落ち着いてくれ!」

「あなた……申し訳ないですが、あなたの頼みでも無理です! 過ぎた時間は、どうやっても取り戻せないのですからっ!」


 ラヴィニアが幼少期に攫われ、操られていた事に対して怒っているのはわかった。

 だが、レヴィアは魔族ではない。

 俺がパラディンだからか、それとも魔族と何度か戦って来たからか、魔族か否かというのは何となくわかるからな。

 しかし、ラヴィニアはレヴィアを悪魔だと言い、未だに敵意を向けている。


「力。力があれば……」

「ラヴィニア、しっかりするんだ。レヴィアは俺たちの仲間で、魔族ではないぞ」

「違うんです! あなた……どうしてわかってくれないの? リヴァイアサンは海の悪魔なのっ! うぅ……私の敵なのっ!」


 そう言って、ラヴィニアが悲しそうな表情を見せたのだが、その直後、洞窟の中と同じように膠着する。


「……また、この声が……」

「ラヴィニア? どうしたんだ!?」

「……力を……くれるの?」

「ラヴィニア。何を言っているんだ!?」


 暫くラヴィニアが動きを止めた後、


「……≪トルネード≫」


 ラヴィニアが水魔法ではなく、風魔法を使ってレヴィアを攻撃した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る