挿話92 新月の祭に巻き込まれるプリーストのステラ

「えっと、昨日はアレックスさんが壁の下で一泊していたから、今日は帰って来る日……たぶん、いつものパターンだと東の休憩所ね」


 魔族領へ来て数日が経ち、ここでの生活にも慣れてきた。

 予想外に良かった事は、魔物が周囲に居ない事とご飯が物凄く美味しい事。

 想像以上に悪かった事は、アレックスさんの奥さんが想像出来ないくらいに多い事……かな。

 ただ、それでもエリーちゃんを始めとして、みんな幸せそうにしているし、その……夜の夫婦生活も全員満足しているみたいだから、完全に悪い事ではないのかもしれない。


「今日は、アレックスさんが帰って来る日だー」


 あ、悪い事がもう一つあった。

 一体、何がどうなったのか、ティナちゃんがアレックスさんの事を好きになっちゃったみたいなのよね。

 ティナちゃんはまだ十三歳でしょ!? しかも、これだけ沢山の奥さんが居るのよ? アレックスさんは大切にしてくれるでしょうけど、その愛は他の女性にも向けられちゃうのよ!?

 まぁその、どういう訳か、エリーちゃんの旦那さんだって分かっているのに、私も抱いてもらいたい……げふんげふん。わ、私は何を考えているのよっ!

 私は聖職者なんだから、この魔族領の中で、そういう事から一番距離を置かないといけないのに……でも、アレックスさんの事が気になってしまうのは何故!?


「ステラー、ティナちゃーん。そろそろ、東の休憩所へ移動しよっか。今晩は、アレックスが向こうに来ると思うし」

「はーい」

「えへへー、アレックスさんとお風呂ー!」


 ティナちゃん。エリーちゃんの前で、堂々と浮気宣言するのはどうかと。

 私も一緒に入るけどさ。……その、ティナちゃんを守る為っ! そうティナちゃんの為なんだからっ!

 そんな事を考えながら、ソフィさんが作った魔導列車に乗ると、


「ちょっと待ったー! その魔導列車……ウチたちも乗せてもらうからっ!」

「あれ? パメラさん……というか、兎耳族の皆さんが魔導列車に乗るなんて珍しいわね。東の休憩所へ行くの?」


 エリーちゃんは普通に話しているけど、兎耳族の女性が大量にやって来たっ!

 待って! 兎耳族って、伝説の種族じゃないの!? 確か、兎耳族の女性は全員性欲が凄くて、男性が逃げ出すか干からびるって。

 エリーちゃんが話を聞くと、普段は月魔法っていうのを使ってアレックスさんの分身とエッチな事をしているらしいんだけど、今晩は新月で魔法が使えないのだとか。

 なので、アレックスさんの所へ行って、本人に愛してもらう……って、兎耳族の女性が十数人も居て大丈夫なのっ!?


「えーっと、パメラさんたちは一晩くらい我慢とかは……」

「無理無理無理。ウチらは種族的に、そういう我慢とかは出来ないからさ」

「……仕方ないわね。ちょっと待ってて。メイリンさん経由で皆に伝えてくるから」


 そう言ってエリーちゃんが魔導列車を降りたみたいなんだけど、既に兎耳族の女性が沢山乗り込んでいて、声しか聞こえない。


「アレックス様から直々に愛してもらえるなんて久しぶりだねー。今晩は最低でも十回は出してもらわなきゃ」

「すっごく楽しみだよねー。私、前は八回しか出してもらえなかったもん」

「今日は本物のアレックスさんの身体を隅々まで知り尽くして、月影魔法の精度を更にあげなきゃ。出してもらう時のリアリティを追及したいなー」


 待って。周囲の兎耳族の方たちが、とんでもない話をしているんだけど。

 ……って、あれ? 魔導列車が動き出した!?

 ティナちゃんは……居ないっ!? エリーちゃんと一緒に降りていたのっ!?

 相変わらず凄い速さで東の休憩所へ着いたんだけど……何故か魔導列車が動く気配がなくて、向こうに戻ってくれない?

 あの距離を今から歩いて帰ると、真夜中になっちゃうし、仕方なく私も東の休憩所へ入っていると、


「よし! アレックスと愛し合う前に、先ずは腹ごしらえだ! みんな、料理を作ってくれたペルラに感謝して……いただきまーす!」


 料理人のジョブを授かっている兎耳族の方が夕食を作ってくれて、一緒に居たネーヴさんや私もいただく事になったんだけど……あら、美味しい。

 普段料理を作ってくれている、リディアさんやエリーちゃんとはまた違う味に舌鼓を打っていると、


「いやー、やっぱりペルラの作る料理と、リディアが植えてくれた作物は最高だな。こんなに美味しくて、精の付く料理が毎日食べられるんだからな」


 パメラさんの大きな声で手が止まる。

 精の付く料理!? えっ……兎耳族の女性が精を付ける為の料理を、私も食べちゃったって事なの!? もう殆ど食べ終わりかけなんだけどっ!

 残す訳にもいかず、全部食べて暫くすると、身体が熱くなってきて……こ、これはダメぇぇぇっ!


「アレックス! 待ってたよっ! さぁ子作りしよう!」


 こ、こんなタイミングでアレックスさんが帰って来たけど……あぁぁぁっ! みんな、私の事なんて一切気にせず服を脱いでアレックスさんに襲い掛かってるっ!

 ネーヴさんも混ざりに行ったし、一緒に戻って来たカスミさんも服を脱いで……凄いっ! アレックスさんの……あぁぁぁっ! そんな事までっ!?

 ま、混ざりたい。けど、私は聖職者で……と、とりあえず服だけ脱いでおこうかな。か、身体が熱いし。

 ……って、待って! アレックスさん!? 私は兎耳族でもカスミさんでもなくて……ゆ、指ぃぃぃっ!

 待って待って待って待……~~~~っ!

 ……わ、私はここまで。これ以上は、凄すぎて理性と身体が耐えられないよぉぉぉっ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る