第673話 ザシャを待つアレックスたち

 宿でザシャの帰りを待つ間、時間があるのでディアナに故郷の事……というか、西大陸の事を教えてもらう事にした。


「この街みたいに砂ばっかりじゃなくて、もっと木はあるよー。ただ、森って程ではないと思うけど」

「では、西大陸全てが砂漠ではないのか」

「うん。ただウチの家は、西大陸のもっと内側だけどね」


 なるほど。外側は砂漠だが、内側へ行って川などがあれば、船で移動出来るかもしれないな。

 とはいえ、一度船は修理してもらわなければならないが。

 ……ノーラがせっかく故郷へ帰っているので、押しかけるのもどうかと思うし、そもそもまず水辺を見つけないと、天后のスキルで転移する事も出来ないが。


「えっと、この街だと木を加工したり、船を作ったり出来る者は居ない……よな?」

「まぁそもそも木がないですからね。家といば、ご覧の通り土を固めて作ったレンガで作るものですから」


 そう言って、羚羊耳族の女性が教えてくれた。

 ちなみに、今は宿の俺の部屋にあるテーブルにディアナと羚羊耳族の女性が座り、三人で真面目に話をしている。

 ユーリは俺の背中に抱きついているが、それ以外のメンバーは各部屋で俺の分身と……げふんげふん。

 まぁその……いつもの如く、結衣には助けてもらっているが。


「……ん? アレックスさん。何か変な香りがしませんか?」

「ホントだー! 何の匂いかはわからないけど、すっごく美味しそう! 物凄く気になる匂いだー!」

「き、気のせいじゃないか? そ、それよりもっと西大陸の事を教えて欲しいんだが」


 しまった! 二人は獣人族で、鼻が利くのか。

 普段は結衣が頑張ってくれているおかげでバレていない事が多い。

 だが今は……消臭魔法とかスキルの類は無いのだろうか。

 ひとまず、何とか誤魔化さなければと考えていると、突然部屋の扉が開かれる。


「アレックス、ただいま」

「ザシャ? おかえり。奴隷紋は……」

「あぁ、もう終わったよ。予想と違って、何の警備もなかったから、あっさり終わったよ」

「警備?」

「術者は奴隷商人だろ? だから、そいつを殺……げふんげふん。そ、その、何て言うか……奴隷紋を解除する為の場所があるんだけど、そこが思っていたより近かったんだよ。うん、そういう事なんだ」


 どういう事だ?

 ザシャが早く話を終わらせようとしている感じに聞こえるが……ひとまず、羚羊耳族の女性が立ち上がり、自身の太ももを確認する。


「ほ、本当だっ! 奴隷紋が消えてますっ! あ、ありがとうございますっ!」

「待った。私に礼は要らないよ。私はアレックスの従者みたいなもんだからね。アレックスが許可しなければ、奴隷紋を消しに行く事もなかった。お礼なら、アレックスに言っておくれ」


 いや、従者ってなんだ?

 俺はザシャをそのように思った事はないのだが、それを伝える前に羚羊耳族の女性が抱きついて来て……キスされてしまった。

 ……うん。スキルも貰ってしまったようだが、何のスキルかは分からないな。


「すみません。今の私にできる精一杯のお礼がそれしかなくて」

「あー! にーに! ウチもチューしてみたい! にーに、にーにー!」

「パパー! ユーリもー! ユーリもするのー!」


 ザシャが何故か俺に話を振ったから、羚羊耳族の女性とディアナとユーリに三方向から抱きつかれ、大変な事になってしまったんだが。


「あ、アレックス。私へのお礼は分身を一体出してくれれば、後はこっちで勝手にするよ。他のメンバーが居ないのと、結衣が居るって事は、そういう事なんだろ?」


 ディアナにもキスされ、ザシャの声しか聞こえないものの、全てをお見通しといった様子で……とりあえず、奴隷紋を消してくれたので、お礼は必要か。

 要望通りに分身を出すと、奥のベッドへ……って、俺の部屋では待ってくれ!

 ここにディアナやユーリが居るんだぞっ!?


「あ、闇で見えなくするから大丈夫だよ……んっ! あはぁっ!」


 ……って、確かにベッドの上が見えなくなっているが、声が丸聞こえだっ!

 俺はミオと違って消音の結界は使えないんだってば!


「んー、ザシャさんって人……変な声が聞こえてくるけど、大丈夫かなー?」

「あー、ディアナちゃん。アレは、その……ディアナちゃんにはまだ早いかしら」

「速い? スピードなら負けないよー? ねー、にーに! 何かわからないけど、ウチもするー!」


 羚羊耳族の女性のフォローがフォローになっておらず……全力で話を逸らす事になってしまった。

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