挿話2 アレックスとくっつけるために、知らない所でお膳立てされていたアークウィザードのエリー

 アレックスがパーティから居なくなってしまい、全く味のしない朝食を済ませた後、ローランドが冒険者ギルドへ行こうと言い出した。


「さっき言ったアレックスの代わりのメンバーの件だ。実は以前から、マジックナイトのモニカが俺たちのパーティに入りたいと言ってきていたんだ」

「え? マジックナイトのモニカ……って、まさかあの有名なモニカさんですか?」

「そうだ。ステラは知っているんだな」

「えぇ。彼女、誰とも組まずにソロでA級冒険者になった人ですからね。この街……というか、この辺り一帯の冒険者ギルドでは有名人ですよ」


 ローランドとステラがアレックスの後任の話をしている。

 マジックナイトと言えば、剣と魔法の両方が使えるから、ローランドの言う通り、攻撃も防御も出来るのだろう。

 だけど話を聞く限り、これまでずっと一人で活動してきた人なんだよね?

 攻撃はともかく、アレックスみたいに私やステラの動きを先読みして、連携とか取れるのかな?

 一抹の不安を覚えながら、だけど私には代替案も無いので、ローランドについて行き、冒険者ギルドへ。


「いらっしゃいませ! これはこれはローランドさん。今日はどういったご用件ですか?」

「A級冒険者のモニカと会う約束をしていえるんだ。どこか個室を貸して欲しいんだが」

「畏まりました。では、そちらの部屋をどうぞ」


 え? 会う約束をしている?

 ついさっきアレックスが出て行ったばっかりなのに!?

 ローランドの言動に、少し引っかかりを覚えつつも、いつものお姉さん――タバサさんに示された部屋へ行こうとすると、


「あ、エリーさん。ちょっとだけ来ていただけますか? 以前にお問い合わせいただいた冒険者証の件についてです」


 よく分からない理由で呼び止められた。

 冒険者証について問い合わせを行った記憶なんて、無いんだけどな。

 とりあえず、ローランドとステラに部屋へ向かってもらい、一人でタバサさんの所へ行くと、別の小部屋に通され、


「ちょっと、エリーちゃん! 何をしているのっ!?」

「えぇっ!? 何を……って、何の話ですか?」

「アレックスさんの話よっ! どうしてアレックスさんはパーティを抜けちゃったの!?」

「えっ!? それは……その、詳しい事は私も分からないんですけど、アレックスとローランドが二人で話し合って決まったって……」

「ふぅん。ローランドさんがねぇ……」


 いきなりアレックスの話を突っ込まれる。

 ギルドへ来る時は、いつも四人一緒に来ていたから、一人居ないと目立つよね。


「で、エリーちゃんはどうするの? アレックスさんの所へ行くのか、戻ってきてもらうのか。それとも……まさか諦めるの?」

「わ、私は……本当はアレックスの所へ行きたい……です。でも、どこへ行ったのか行き先も分からないし」

「分かるわよ。というか、アレックスさんは冒険者なんだから、ギルドへ来るに決まっているじゃない!」

「えっ!? ほ、本当ですかっ!?」

「えぇ。今、アレックスさんは第四魔族領の端に居るわ」

「……って、魔族領!? どうしてそんな所にっ!? というか、アレックスは大丈夫なんですかっ!?」


 魔族領といえば、その名の通り魔王直属の悪魔や魔族が支配する土地で、どういう状態になっているかは、支配する魔族の性格による。

 第一魔族領は、常に黒い霧が掛かっていて人間は立ち入る事が出来ないし、第二魔族領は情報が無くて不明で、第三魔族領は人が奴隷の様に扱われているとか。

 そして第四魔族領は、統治を面倒くさがった魔族によって更地にされた、何もない不毛の地のはずだ。


「まぁアレックスさんだし、大丈夫でしょ。一応、住む場所と食料はあるし」

「で、でも、魔族領ですよ!? 強力な魔物や悪魔が沢山居るじゃないですか!」

「だからこそ、アレックスさんなのよ。対悪魔や対魔族なんて、パラディンやプリーストの右に出るジョブなんて無いじゃない。エリーちゃんもアレックスさんの強さは知っているでしょう?」

「それはまぁ、もちろん知ってますけど」

「だから、アレックスさんなら大丈夫よ。それより、アレックスさんに送った食料……これを小麦粉と調味料にしておいたの」

「えぇっ!? アレックスは全く料理が出来ない訳ではないですけど、流石に小麦粉から何かを作るなんて出来ないと思いますよ!?」


 アレックスが小麦粉を使って出来そうな料理と言えば……とりあえず小麦粉と水を混ぜた物を焼くくらいじゃないかな。

 昔、切ったキャベツと小麦粉を混ぜて焼いただけの料理? を作っていた気がするし。


「まぁアレックスさんは、パンなんて作れないでしょうね。でも、そんなアレックスさんだから、料理が得意なエリーちゃんの事を、今頃一人寂しく思い出していると思うの。つまり……エリーちゃん。チャンスよ!」

「な、何がですかっ!?」

「数日間、美味しい物が食べられず、しかも魔族領で独りぼっち。そんな状態の所へ可愛い幼馴染が来て、美味しい料理を振る舞われたら……アレックスさんから、即エリーちゃんに結婚を申し出て来るはずよっ!」

「けっ……た、タバサさん! 私は、そういうやり方ではなくて、もっと普通にアレックスと……」

「でも、アレックスさんの鈍さは、エリーちゃんが一番良く分かって居ると思うけど?」

「う……まぁ、今までタバサさんにも相談に乗ってもらい、あの手この手を尽くしましまけど、全く気付いてなさそうでしたもんね」

「でしょ? それで、明後日くらいに、通話魔法を使ってアレックスさんの様子を聞くから、エリーちゃんはその後にギルドへ来て。おそらく、食べ物にも人肌にも飢えているであろうアレックスさんの所へ送ってあげるから。そして、二人で愛を育むのよ!」

「ちょ、タバサさんってば!」


 一先ず、アレックスに会える方法は分かった。

 しかもタバサさんによって、色々とお膳立てされている事も。

 私が向こうへ行けば、誰も居ない魔族領の家で、アレックスと二人っきりの生活。

 あ、有り……かな。

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