第58話 空を飛ぶ敵への対抗手段
「出来たーっ! お兄ちゃん。内装や家具は別だけど、お家が出来たよーっ!」
「おぉっ! ノーラ、ありがとう。皆も、協力してくれて、本当に助かったよ」
ベルゼブルとかいう奴が現れ、一時作業が中断していたものの、皆が頑張ってくれたおかげで、夕方に家が完成した。
無理を言って、急いで造ってくれたノーラを抱きしめつつ、全員を労い、一先ず今日は小屋で就寝する事に。
その翌朝、
「じゃあ、今日からノーラが造ってくれた、新しい家を拠点にしよう。皆、自分の荷物を持って、移動しておいてくれないか?」
「あれ? お兄さんは行かないの?」
「後で行くよ。というのも、昨日の空を飛んで来たベルゼブルの事をシェイリーに相談しに行こうと思ってさ。という訳で、悪いんだがエリーはついて来てくれないか?」
朝食を済ませると、俺は早速シェイリーの元へ行く事に。
地下洞窟の魔物はエリーの魔法で倒してもらい、万が一の為にモニカは地上を守ってもらおうと思ったのだが……モニカが、どうしてもついて来ると。
仕方が無いので、俺とエリーとモニカの三人でシェイリーの所へ行き、残るリディアたちには、移動の為の荷物整理をお願いしておいた。
モニカは地下に新手の魔物が現れた時の為に……と言ってついて来たけど、いつもと変わらぬ魔物を倒し、社へ到着する。
「シェイリー。居るか? 少し相談があるんだが」
「この前の続きか? では、社の中で……」
「ん? とりあえず中へ入れば良いのか?」
社の中へ入ると、床の上に布団が敷かれていて、そこに半裸のシェイリーが座っていた。
「シェイリー。胸が見えているぞ? ……これで大丈夫だな」
「アレックス。何故だ? 何故、我の身体を見て、何も反応せぬのだっ!? やはり、後ろに居る牛の乳みたいな……こほん。えー、こんなに朝早くから何の様だ?」
シェイリーは寝起きだったらしく、乱れた服を直してあげたのだが、よく分からない事を言われてしまった。
一先ず、昨日現れたベルゼブルの事を話すと、
「なるほど、空を飛ぶ魔物か」
「そうなんだ。俺の予想では、おそらく悪魔……聖属性以外は効きにくいのではないかと思っている。だが皆を守る為、何とかしなくてはならなくてな」
「ふむ。方法がなくは無いぞ。ただ、少し条件があって、後ろの二人……特にエリーという者には辛いかもしれぬ」
何とか出来ると、頼もしい言葉が返ってきた。
ただ、条件は気になるが。
「あ、あの……私にとって辛い条件って、何ですか? 私が何かを差し出すとか?」
「いや、対価が欲しいと言っている訳では無いのだ。前に話したが、我は魔王に封印され、未だに弱体化したままだ。この状態から回復するには、信仰や酒が必要で、未だ長時間ここから離れる事が出来ん」
「つまり、シェイリーさんを神様として崇めるとか、お酒を持って来ないといけないって事ですか?」
「いや、信仰はもっと大勢の人数が必要だ。米の酒はあれば嬉しいが、すぐには手に入らぬだろう?」
「でしたら、一体何を?」
エリーが困惑していると、シェイリーが俺に目をやり、
「アレックスの子種が欲しい」
とんでもない事を言い出した。
「し、シェイリー!? な、何を言い出すんだっ!?」
「ダメぇぇぇっ! というか、どうして力を回復させるのに、アレックスの……その、アレが要るのよっ!」
「ご主人様の子種……わ、私も欲しいです」
シェイリーが変な事を言いだすから、エリーが怒り、モニカは息遣いが荒くなる……って、どうして腕に胸を押し付けてくるんだよっ!
「まぁ待て。適当な事を言っているのではなく、ちゃんと理由があるのだ。というのも、アレックスは過去に我の血を飲んでいるだろう? 我の力を取り込んだアレックスの体液が、我の回復に最も効くのだが……その中で最も魔力を含む体液が、何だか分かるか?」
「まさか、それが精……こ、子だ……ね?」
「その通りだ。何、今お主が想像しているのとは違い、体内に入れば何でも良い。だから、子作り――アレックスが望めば我は構わぬが――でなくとも、口から飲めば良いという訳だ」
「く、口で……」
「うむ。お主たちの気持ちは知っておる。だが、近場ならばともかく、ここから長時間離れて、それなりの敵と空中で戦うとなると、今の我の力では無理だ」
シェイリーは真面目な表情で、冗談を言っているようには見えない。
とはいえ、流石に……だが、皆を守るには、シェイリーの協力は必要不可欠だ。
だがしかし……いや、シェイリーがここまで言ってくれているのに、それを俺が断り、結果皆を危険に晒す事なんて出来ない!
「わ、分かった。俺に出来る事であれば、協力しよう」
「アレックス!? ま、待ってよ! そんな……な、何か他の方法を……」
「いや、相手は空を飛んで来る上に、おそらく聖属性以外は通じない悪魔だ。聖属性の攻撃魔法があれば、まだ何とかなるかもしれないが、今はシェイリーに助けてもらうしか無いだろう」
俺の言葉でエリーが地面にへたり込む。
だが、一番へたり込みたいのは、シェイリーだろう。
俺たちを守る為に、あんな物を飲まなければならないなんて、申し訳なさ過ぎる。
「話は決まったか?」
「あ、あぁ。シェイリー。申し訳ないが、頼む。とりあえず、出せば良いか?」
「ふふっ。そう焦らずとも、我は逃げんよ。リラックスして、我に身を委ねよ。悪いようにはせん。……そうだ、お主らはどうする? 後学の為に見ていくか?」
そう言って、シェイリーがエリーとモニカに顔を向けると、
「わ、私は無理……。外で待っているわ」
「私は見学させてもらいたい! 是非、頼む!」
真っ青なエリーと、顔を輝かせるモニカとで、大きく反応が異なっていた。
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