第57話 黒い悪魔と黄色い染み

 黒い翼を持ち、俺よりも二回り程大きな人型の何か――以前に倒した悪魔マモンによく似たそいつが、


「コノニオイ。ニンゲン……カ? チガウノモ、イルヨウダガ」


 片言で話しかけてきた。

 普通の魔物は喋ったりしないので、悪魔か魔族のどちらかだろう。


「≪アイス・ジャベリン≫」


 俺が警戒を強めたからか、エリーが唐突に攻撃魔法を放つ。

 だが、エリーが生み出した氷の槍は、黒い悪魔の身体をすり抜け、そのままどこかへ飛んで行ってしまった。


「こ、この魔物は、私の魔法が効かないのっ!?」

「違いますっ! おそらくそれは、幻影……どこか別の場所に本体がいるのだと思われます」

「ソッチハ……エルフカ。コノチヨリ、レンラクガトダエタ……ゲンインハ、オマエタチカ」


 なるほど。

 俺が悪魔マモンや土の四天王ベルンハルトを倒し、第四魔族領と連絡が取れなくなったから、他の魔族が様子を見に来たという訳か。

 しかし、幻影を通じてこちらの様子を見たり、会話出来ているって、かなり凄い事だと思うんだが。

 前に遭遇したマモンって奴は、パラディンの攻撃スキル連発で倒す事が出来たけど、距離を取って魔法攻撃をされていたら、ヤバかったのかもしれないな。

 そんな事を考えていると、


「ま、幻だったのか。……チッ! ビックリして、少し漏れちゃったじゃないかっ!」


 モニカがよく分からない事を言いながら、黒い悪魔を斬りつける。

 すると、物理攻撃に弱いのか、それとも幻影の役目が終わったと、魔法だかスキルだかを解除したのか。その姿がゆっくりと掻き消えて行く。


「……ワガナハ、ベルゼブル。ツギハ、ホンタイデコヨウ……」


 消え行く中で、ベルゼブルと名乗った悪魔の幻が、次は本体で来ると言い残して完全に消滅した。

 おそらく、魔法に長けている相手で、しかも空を飛ぶ。何か対策が必要だな。


「お、お兄ちゃん! 怖かったよーっ!」

「大丈夫だ。何が来ても、俺が皆を絶対に守る」


 震えながら抱きついて来たノーラを、安心させるように撫でながら、


「一先ず、予定通り家を完成させよう。さっきの奴も、今すぐに来る訳ではないだろうし。ただ、空を飛んで来るからな……後でシェイリーに相談してみるよ」


 作業の再開を伝える。

 まだノーラは少し不安そうな表情を浮かべているけれど、再び作業が再開された所で、


「お兄さん。この盾はどうしようか? とりあえず急ぎで作ったんだけど」


 ニナが少し小さめの盾を持って来てくれた。

 持ってみると、見た目よりもかなり軽いのに、強度も申し分なさそうだ。


「えっと、お兄さんが作業中でも邪魔にならないように、ベルトに取り外しが出来るようにしたんだ」

「おぉっ、それは凄い! 流石ニナだな。ありがとう。常に身に付けておくようにするよ」

「えへへ……どういたしまして」


 ニナにお礼を言って頭を撫でていると、


「あ、アレックスさん。これ、エルフに伝わる魔除なんです。良ければ、お持ちになっていただければと」


 リディアが小さな木の枝を持って来た。


「え? でも、リディアの大切な物ではないのか?」

「はい。ですが、せっかく作った物ですので」


 あ、なるほど。

 リディアが奴隷にされてしまう前から持っていた物とかではなくて、この魔族領へ来てから自身で作った物か。


「分かった。じゃあ、上着に付けておくよ。ありがとう」

「いえ。アレックスさんが身に付けてくださるだけで、嬉しいです」


 小さな枝がピンの様に留められる造りだったので、上着に付けると、それを見たリディアが、嬉しそうに抱きついて来る。


「くっ……ここは、私も何かアレックスに渡して、ずっと身につけてもらう流れ! けど、そういうのを何も持ってないっ! ノーラちゃんは、自分で建てた家にアレックスが住む訳だし……生産職が羨ましいっ!」

「ふっ……エリー殿もまだまだだな」

「……モニカさんは何かあるの? でも、私と同じで戦闘職だし、お酒は未だ出来上がって居ないでしょ?」

「愚問だな。そこで見ていると良い。エリー殿に、その手があったか! と言わせてみせよう」


 何だろう。

 向こうでエリーとモニカがコソコソ話して居るんだけど……最近、あの二人は過激だからな。

 無茶な事をしてこなければ良いんだけど。

 あ……モニカがこっちに近づいてきた。


「ご主人様っ! 私からもプレゼントがあります! どうか、受け取って下さい!」

「え? あぁ、ありがとう……って、何をしているんだ!?」

「ですから、私のプレゼントを……これですっ! 目の前で脱いだ、生パンツっ!」

「…………白いパンツに、黄色い染みが……」

「あっ! さっき少し出ちゃったから……でも、これも味わい深いですよねっ!」

「さて、ノーラ。もう少しだから頑張ろう! 何でも指示してくれ」

「ご主人様っ!? ご主人様ーっ!? またスルーですかっ!? かぶって……とまでは言いませんが、せめてクンカクンカくらいは……」


 クンカクンカって何なんだよっ!

 脱ぎたてパンツを持って迫って来るモニカを全力でスルーして、ノーラの手伝いを頑張る事にした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る