第330話 エリラドの街
「このエリラドの街は、ウララドよりも大きいみたいだな」
「そうですね。というより、ウララドが最北端の僻地っていうのもありますけど」
なるほど。確かにケイトの言う通り、ウララドのすぐ北は魔族領で、あの巨大な壁があるからな。
「とりあえず商人ギルドを探そうか。事情は当然こちらにも伝わっているだろうし、次は何処へ向かえば本部に近付けるか教えてくれるはずだ」
「そうですね。しかしながら、その前に……」
「あぁ、分かっている。どうして、この国にはこういう奴らが多いんだろうな」
ツキと話ながら、同じ馬車から降りた後に俺たちの後をつけて来ていた奴ら――三人組の男たちを捕まえる。
「え? ひぃっ!?」
「で、お前たちは何だ? 何故、俺たちの後をつけ、隠れて様子を見ていたんだ?」
「す、すみませんっ! その、み、道に迷ってついて行こうかと」
「嘘だな。悪いが、向けられている視線にどのような感情が込められているかくらいは分かる。特に言い分が無ければ、騎士団――じゃない、自警団に突き出すが、構わないな?」
そう言うと、俺が捕まえている二人の男が一瞬チラっと視線を逸らす。
なるほど。まだ別に仲間が居たのか。
だが、俺に捕まっていた方が幸せだと思うのだが、
「ぎゃぁぁぁっ! こ、このガキ……刺しやがった」
「武器を持っていた腕を刺しただけだ。まったく……自分の行動を考えてから口を開け」
案の定、ツキに攻撃されていた。
ちなみに、最初の三人組の内、俺が捕らえなかった一人もツキに脚を斬られているが。
「ギルドより先に自警団を探す事になってしまったな……≪閉鎖≫」
四人の男を連れて歩くのも面倒なので、閉鎖スキルで閉じ込めておいた。
万が一の事を考え、ツキに攻撃された者たちに治癒魔法を使ったのだが、
「アレックス。こいつらを治してやる必要なあるのか?」
「まぁ悪い奴らではあるだろうが、悪人であろうと、殺す訳にはいかないからな」
「でも、攻撃してこようとしたら、敵だぞ? そもそも殺して終わりで良いのでは?」
レヴィアがなかなか過激な事を言う。
幼いが故の発言なのか、来てすぐの頃のヴァレーリエのように、竜人族故の考え方なのか。
それとも、幼くしてレヴィアを残して家族を全員失ってしまったからか。
いずれにせよ、レヴィアには色々と教えてあげないといけないな。
一先ずレヴィアを諭すように話しながら、エリラドの街を歩いて行く。
……暫く話をしてみると、
「うーん。難しいけど、アレックスがそう言うなら、あんまり人を殺さないようにする」
「そうだな。人は悔い改める事が出来るんだ。相手が悪いと思って反省していたら、許してあげような」
「……わかったー」
完全に納得はしていなさそうだが、とりあえず俺の考えは伝わったようだ。
「……って、ここは何処だ?」
「一応、私とケイト殿がお声掛けはしたのですが、父上がレヴィア殿との話に集中されておりましたので……ギルドや自警団の建物は通り過ぎてしまいました」
「……そうか。すまない。悪いが来た道を戻ろうか」
ツキに言われて周囲を見渡すと、ボロボロの家ばかりが並ぶ、区画に来ていた。
エリラドの街はウララドより大きく、通りは栄えていたのだが、その反面こういった場所も大きいようだ。
そんな事を考えていると、
「いやっ! 離してっ! 離してよっ!」
突然子供の叫び声が聞こえて来る。
声のした方へ向かって走ると、中年の男がレヴィアくらいの幼い女の子を抱きかかえて居た。
「何をしているんだ!」
「うるせぇ! 関係ない奴は引っ込んで……うぐぁっ!」
男の腕を強めに握ると、女の子を離したのですぐさま受け止める。
「大丈夫か?」
「う、うん……」
「待て! 俺はこの子の親だ! お前の勘違いだっ!」
だが、男が怒りの形相で口を開くので、女の子に確認すると、
「……ほ、本当……です」
怯えた様子で頷く。
これは……本当とも嘘とも取れる、何とも言い難い視線だな。
「おい! 言った通りだろ! 早くこの手を離せ!」
「すまんが、俺には真偽が判断出来ん。ツキ、自警団へ行って、人を呼んで来てくれないか?」
「ば、バカかっ! お前も、見た目がバラバラの幼女を連れて歩いているし、同じ穴のムジナだろ! 察しろ!」
「ん? どういう意味だ?」
「だから、闇ギルドから買った娘だろーが」
「……聞き捨てならないな。やはり自警団に突き出そうか」
「な、なんだと!? この、離せ……ぐほぁっ!」
とりあえず拳で男を黙らせると、
「アレックス。やはり悪人は殺して良いのだな?」
「レヴィア。だからダメだって。今のは気絶させる為に軽く……あ、あれ? ≪ミドル・ヒール≫」
何故かピクピクしていたので、治癒魔法を使っておいた。
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