第922話 限界に達したレヴィア

「……という訳だそうです」

「何と! その幼い妻を助ける為に、あの激しい海流の中を通って!? むぅ……確かに妻は今も震えているし、具合が悪そうだな」


 いやあの、レヴィアは体調が悪い訳ではないのだが……ひとまず、俺には何となく二人の男が居るようにしかみえないのだが、向こうからは俺たちの事がハッキリ見えているようだ。

 ……レヴィアの身体が髪で見えていない事を願うしかないな。


「それで、その人間族の女性を治すのに、どうしてここへ?」

「確か神族に会いたいのだったな?」


 そう言って、最初の男がこちらを向いた気配がしたので、改めて説明する。


「あぁ。この辺りにハヤアキツヒメという神が居たら、居場所を教えて欲しいんだ」

「ふむ……この辺りに居るのだとすれば、女王様が知らないはずはないな。だが、今は……時期が悪い」

「そうなのか?」

「うむ。普段ならば、女王様への謁見を申請するくらい問題がないのだが……とはいえ、人命に関わるか」


 士長と呼ばれた男が悩み始めたところで、タイミングが良いのか悪いのか、レヴィアが大きく震える。


「~~~~っ!」

「やはり、マズいか。人間族がここまで来るだけでも、相当な負担だったはず。本来ならば、どこかで休ませておくべきなのだろうが、あいにくと我らに人間族が休むような場所はないのだ」

「……こ、このままでいい。アレックスと離れない」

「なんと健気な……声が震える程の状態だというのに。わかった! ひとまず、二人ともこちらへ。私の上司に相談してみよう」


 そういって、士長がついて来るように言い、再びレヴィアを抱えたまま小走りでついて行く事に。

 レヴィアが声を押し殺し、身体を震わせながら耐えていると、


「三曹殿。報告があります!」


 先程、士長へ説明した時と同じ様なやり取りを行う。

 その間も同じ様にレヴィアが身体を震わせ、体調が悪いと誤解されてしまい、三曹と呼ばれた男がまた上司の元へ俺たちを連れて行く。


「二曹殿。少しお時間をいただけますでしょうか」

「……って、ちょっと待ってくれ。俺たちの事を気に掛けてくれていて非常にありがたいのだが、女王様に話を聞けるまで、どれくらいの人を介在しないといけないのだろうか」

「私の上が一曹殿で、その上が曹長殿だな。ただ、曹長殿でも今の女王様に謁見出来るかはわからんな」

「もしもダメだった場合は?」

「曹長殿の上となると、准尉殿、三尉殿から一尉殿。三佐殿から一佐殿……その次の将補殿までいけば間違いないと思うが」

「という事は、あと十回このやり取りをして、ようやく女王に話を聞けるかもしれないのか!?」

「そうだな。すまないが、我らの種族にとって階級は絶対。階級を飛ばして報告など、決して許される事ではないのだ」


 くっ……これをあと十回も繰り返すのか!?

 だが、こちらが無理を言って情報提供を依頼している訳だし……


「……アレックス。レヴィアたんなら大丈夫。あと十回、耐えられ……っ!」

「レヴィア!?」

「むっ! 何やら、緊迫した状況なのだな!?」


 レヴィアが気を失ってしまったので、慌てて説明をした後は、全力で走って行く。

 気を失っているはずなのに、レヴィアの身体が時折跳ねるが、とにかく説明を続ける。


「……という訳なんです」

「なるほど。しかし、時期が時期だからな。将補殿がどう判断するかだな」


 結局、誰も女王に取り次げる者はおらず、間違いなく大丈夫だと言われていた将補という者のところへ。

 三佐からは個室になっており、将補の部屋の前で一佐の者が叫ぶ。


「将補殿! 至急の相談です!」

「ふむ、入れ」

「はっ! 失礼致します」


 相変わらず灯りがなく、暗い部屋に入ると事情を説明したのだが、


「その抱えている幼女が、その人間族の男の妻……って、待て! そ、その者……竜人族ではないかっ!」

「えぇっ!? 竜人族っ!? しかし、この男は人間族だと……」

「いや、その人間族の男も何か変ではないか!? 体内の魔力が……な、何者だっ!?」


 一佐までは何事も無かったというのに、ここへ来て突然警戒されてしまった。

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