第921話 具合の悪いレヴィア?
サラが分身に何かしているのか、変な感覚に襲われる。
視界を分身に切り替えて、サラが何をしているのか確認したいところだが、全力でレヴィアに抱きついていないと、海の底へ吹き飛んでいきそうだ。
仕方なく、激しいレヴィアの泳ぎにも、謎の感覚にも耐え……られないっ!
そんな状態で、暫く海水に揉まれていると、レヴィアの泳ぎが緩やかになり、どういう訳か水から上がる。
「レヴィア? どうして海から出たんだ?」
「……目的地に到着した。ここは空気があるけど、海の底の洞窟」
なるほど。
薄暗くてわからなかったが、よく見れば、俺たちが上がってきた所は、穴なのか。
どこかの地下洞窟の床が抜けて、海と繋がったようだ。
「それより、アレックス。ここまで頑張ったご褒美」
「いや、待ってくれ。この洞窟には何がいるかわからない……」
「ダメ。くっついて泳いでいたら、下からこれが伸びてきて、レヴィアたんの脚の間でいっぱい垂れ流してた。海じゃなくて、ここで出す」
レヴィアが問答無用で抱きついてきて……仕方なく抱きかかえながら進む事に。
とりあえずサラの様子を見ようと思ったのだが、
「何者だ!」
洞窟の奥から男の声が聞こえてきた。
こんな所に人がいるのか!? と驚くと共に、全裸で俺に抱きついているレヴィアを何とかしようと思ったのだが、
「今はダメ。中途半端」
逆にしっかりと抱きつかれる。
レヴィアは身体が小さいので、長い髪で身体が見えない事を願いながら、声がした方へ行くと、槍を構えた者がいた。
「突然、すまない。俺はアレックスという」
「人間族……に見えるが、どうやってここへ?」
「後ろの穴が海に繋がっているだろう? そこから来たんだ」
「……なるほど。魚釣り用の穴からか」
そう言って、槍を構えた者が何かを考える。
考えが纏まるまで待とうと思ったのだが、
「~~~~っ!」
「ん? 子供を連れて来ているのか?」
「子供じゃない。レヴィアたんは妻」
「……そうか。人間族を見た事が数える程しかないのだ。すまん」
レヴィアが声にならない声を上げ、謝らせる事になってしまった。
「俺からも質問して良いか?」
「私に答えられる事なら」
「ここに、ハヤアキツヒメという神様はいるのだろうか」
「ここにはないな」
「そうか。居場所を聞いた事があったりは……」
「私は知らないが、女王様なら知っているかもしれん。この辺りの地中の事であれば、何でも知っているはずだ」
「本当か!?」
残念ながら、レヴィアが連れて来てくれた海底洞窟はハズレだったが、まだ望みはあるようだ。
「女王に会わせてくれとは言わないから、ハヤアキツヒメの居場所を尋ねてもらう事は出来ないだろうか」
「……残念ながら、女王様は今誰ともお会いしない。私も無理だ」
「そこを何とか頼めないだろうか。妻を助けたいんだ」
「ふむ。命に関わるのか。……ついて来い。とりあえず、私の上司に掛け合ってみよう」
そう言って、男が背を向けて歩き出す。
モニカを助けたいのは本当だが、命に関わる訳では……いや、折角の好意なので、水を差すのは止めておこう。
海と繋がる穴から離れると、どんどん暗くなっていくのだが、男は足早に進んで行く。
少しでも離れたら見えなくなって逸れてしまいそうなので、俺も少し早歩きで進むのだが、
「んっ! んぅっ!」
時折レヴィアが変な声をあげる。
サラの様子を見に行ける状況ではないし、分身を消したらメイリンが全力で俺を探し出すだろうし、レヴィアを離したらアレを撒き散らす事になってしまう。
くっ……このままレヴィアを抱きかかえて歩いて行くしかないのか?
「……はぅっ!」
「ふむ。お主の妻はかなり具合が悪そうだな。急ぐか」
「んぁぁぁっ!」
男が小走りになったので、それについて行く為に俺も軽めに走り、レヴィアが身体をくねらせる。
うん。いろいろと違うんだが、それを説明する事も出来ず、結局このまま進む事に。
「失礼します! 士長殿! 抱きかかえた妻の命を救う為に、海からここまで人間族がやって参ったそうです。話を聞いていただけないでしょうか」
薄暗い場所で、いつの間にか別の男の所へやって来ていて……とりあえず、一度サラの様子を見に行く時間をくれないだろうか。
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