第920話 海底を進むアレックス

「サラ。どうかしたのか?」


 これから海へ入る……という所でサラに止められる。


「我々はメイリン母上の命にて、父上と連絡が取れるようにしておく必要があります。ですが、流石に海の中では、海竜種のレヴィア殿と同行する事が叶いません」


 まぁそれはその通りだろう。

 何度もレヴィアに運んでもらってきたが、あの速度で懐中となると、俺も全力でしがみ付く必要がある。

 正直言って、サラを連れていく余裕はないだろう。


「そこで、父上には分身を一体置いていっていただきたいのです」

「分身を?」

「はい。そうすれば何かあった時に、分身を通じて私と会話出来、メイリン母上たちとも会話出来るようになります」


 なるほど。確かに一理ある。

 海の底で何かあった時に、ランランや天后なら、何か助言が得られるかもしれないしな。

 それに、今回はモニカを元に戻す為、神族であるハヤアキツヒメと何かしらの交渉を行う可能性すらある。

 そうなれば、ミオやシェイリーと話が出来た方が良いだろう。


「わかった。サラの提案通り、分身を残していこう」

「ありがとうございます。父上」


 サラに依頼された通り、一体だけ分身を出したのだが、何故か複製スキルが発動した……というか、全裸の俺が現れた。


「おかしいな。分身スキルだけを使用したはずなんだが」

「父上。普段、分身スキルを使用された際は、同じ服装の父上が現れております。今が全裸だから、分身も全裸なのかと」

「ぐっ……そういう事か。では、服を着て……」

「父上。お時間が余りないのでは?」


 サラが全裸の分身を残していけというが、それは流石にどうなのかと思う。


「全裸の男がこんなところに一人で居るのはおかしいだろう」

「あの、父上。服を着ていたとしても、身動きを取らない男性が一人でこんなところに居るのはどうかと」

「そ、そうか。だが、誰か来たら……」

「魔族領とリザードマンの村しかないのに、誰も来ないかと。しかも、どちらもそれなりに距離がありますし」


 むむ……そう言われると、反論出来ない。

 ただ、サラはサクラの人形なので、半分の年齢……十一歳だ。

 変な事をしないでもらいたいが……いや、表情を見るに、真面目にメイリンからの依頼に応えようとしているだけのようだ。


「わかった。じゃあ、サラ。俺の分身の事を頼んだ」

「お任せください。ただ、何があってもこちらの分身は消さないようにお願い致します。もしもこちらの分身が消えた場合、メイリン母上にお伝えする事になるので、おそらくありとあらゆる手段を使って父上を捜索されるかと」

「……メイリンは熱くなると、手段を選ばなくなる時があるからな。わかった。俺が戻って来るまで、この分身は残しておくよ」

「お願い致します」


 メイリンも身重だし、心配は掛けたくないからな。

 それに、海の中を捜索する為に、無理矢理ラヴィニアの人形を大量に作ったりするかもしれない。

 あのスキルを作る為に必要な材料が、アレなので、変な事はしてもらいたくないからな。


「では、今度こそ行ってくる」

「御武運を!」


 サラに分身を任せ、レヴィアに手を引かれて海の中へ。

 歩いて進んで行くと、すぐに頭の先まで水に浸かる。

 だが俺の身長よりも水深が深いとはいえ、レヴィアが海竜の姿になるにはまだ浅いのだろう。

 レヴィアが俺に抱きつくと、人の姿のままでスイスイ海中を進んでいく。

 手や足を動かしていないので、おそらく水の魔法で進んでいると思われるのだが、結構な速さで早さで海底を進む。


「――っ!?」


 突然、レヴィアの泳ぎが更に速くなった!?

 海竜の姿になったのか!? と思ったが、そうではない。

 相変わらずレヴィアが小さな腕で俺に抱きつき……ダメだ。

 これまでは海中の様子を眺める余裕があったが、この速度ではレヴィアにしがみ付くのが精一杯で、レヴィアが東西南北のどちらに向いているか……どころか、上も下もわからない。

 だが、そんな状態だというのに、下半身に変な感覚が伝わってくる。

 これは……まさか、サラなのか!?

 緊急時用の分身だと言っていたのに……一体、何をしているんだよっ!

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