第539話 洞窟の中で見つけたもの

 暫くツルハシを振るって、崖の途中にある洞窟の入口へと辿り着いた。

 この北の大陸は、魔族の強大な力によって、陸地が引き上げられたと聞いているので、元々この洞窟は海の中もしくは、海面のすぐ近くにあったはずだ。

 となると、おそらくこの奥に玄武の祠があるはずで、何かしらの手掛かりがあるに違いない。

 そう考えながら、出発する事にしたのだが、ミオが口を尖らせる。


「むう。我が船で留守番というのは、酷いのじゃ」

「すまない。ラヴィニアだけを残していく訳にはいかなくてな」

「あなたが、私を抱きかかえて歩いてくれても良いのよ?」


 流石に洞窟の探索にラヴィニアを連れて行くのは難しいと考え、ミオと一緒に船で待機してもらう事にしたからな。

 ラヴィニア一人でも大丈夫だとは思うが、万が一の事を考えて、結界が使えるミオにも居てもらい、俺とレヴィア、プルムとユーリで洞窟の中へ。

 二人程が並んで歩ける程の通路を進んで行くと、暫くしてプルムが口を開く。


「んー、この洞窟……塩分を含んだ岩で出来ているみたいだねー」

「そんな事がわかるのか?」

「うん。何となくだけどー、触るとしょっぱいような気がするんだー」


 プルムはプリンセススライムという、スライムの一種だからな。

 手で触れただけでも、味覚を感じる……のか?


「もしかして、長年海の中にあった洞窟だから……という事はないだろうか? おそらく、この洞窟は昔海中にあったはずなんだ」

「なるほどねー。もしかしたら、そういう事もあるのかもー!」


 そんな話をしながら暫く進むと、洞窟の中だというのに、広い場所に出た。

 高さはそれほどないが、円形の広い部屋で、沢山通路が分かれている。


「これは……一つずつ調べると時間がかかるが、罠や魔物の事を考えたら、手分けして行くべきではないだろうな」

「んー、アレックス。レヴィアたんなら心配無用。負けない」

「そうだな。レヴィアなら余程の事が無い限り負ける事はないと思うけど、落とし穴とかがあったら困るだろ?」

「……最悪、洞窟を壊して良いなら、脱出可能」

「うん。その場合、俺やユーリたちも危険だからな。時間はかかるが、一つずつ調べて行こう」


 この洞窟の中で昨日の水柱を出されたら、洞窟が崩壊して生き埋めか、洞窟の中が水で満たされて窒息……なんて事になりかねないからな。

 という訳で、右端の通路から順に中へ入って行く事にしたのだが……見事に何も無いな。

 通路の先は、小部屋といった感じの空間で、完全に行き止まり。

 しかも、右から順に通路を進んで行って、半分程調べたが、全部同じ構造だった。


「もしかしてここは、何かの宝物庫とか、貯蔵庫だったのだろうか」

「アレックスの話だと、ここは元々海の中。となると、どちらも違う気がする」

「なるほど。言われてみればそうか。どちらにも適さないな」


 レヴィアに指摘され、ますますこの洞窟が何かわからなくなりつつも、調査は続ける。

 小部屋の一つに社などがあれば、ここが玄武が元居た場所だと思えるのだが、今の所それも無い。

 そして、何度目となるかわからない、同じ小部屋に入ったところで、他の通路とは違うものを見つけた。


「これは……なんだろうか」

「何かの文字かなー? それとも、記号? 暗号だったりしてー」

「うーん。文字と言われれば、文字かもしれないが……こんな文字は見た事がないな」


 俺の腰くらいの位置に刻まれた、壁の謎の文字? と、短い線をプルムと一緒に眺めながら、首を傾げる。

 一体、これは何を意味するのだろうか。

 紙とペンがあれば、これを書き写して、ラヴィニアやミオにも見てもらうのだが、生憎そんなものは持って来ていない。


「ん? 待てよ……よし。他の通路の調査を続けよう」

「お兄さん。この記号みたいなのは、良いのー?」

「少なくとも、ここに居る四人ではわからなかっただろ? あとで、ラヴィニアやミオに、リディアたちにも見てもらうよ」

「ん? 皆を連れて来るって事ー?」

「いや。まぁ、船に戻ったら説明するよ」


 それから他の通路を見てみたが、結局見つけられたのは先ほどの記号だけだった。

 一先ず船まで戻ると、ラヴィニアとミオを呼び、俺が掘った通路の床にサラサラと洞窟の中で見た記号を描いていく。


「お兄さん、絵が上手なんだねー!」

「いや、実は絵描きスキルというのを習得していてな。それを思い出して、描いてみたんだが……うん。思いの外、上手に描けたな。……二人共、この記号が何かわからないだろうか」


 ひとまず、二人に洞窟の中にあった例の記号を見てもらうと、ミオが首を横に振る一方で、


「え? ……これが洞窟に書かれていたんですか?」

「あぁ。ラヴィニアは、これが何か知っているのか?」

「はい。知っているも何も、人魚族の文字です。普通に読めますけど」


 目を丸くしたラヴィニアから、予想外の言葉が出て来た。

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