第850話 アレックスの策
突然見知らぬ酒場の店員さんに抱きつかれたかと思うと、酔っ払いたちに取り囲まれてしまった。
どうする……これもフョークラの薬のせいなのか!?
早くモニカたちを探さなければならないし……だが、どう考えてもこの人たちは無関係っぽくて、吹き飛ばすのは気が引ける。
「おい、そこの兄ちゃん! その娘はなぁ、俺がずっと……ずっと前から好きだったんだ! ……幸せにするんだぞ!」
「うぉぉぉっ! 皆、今日はワシの奢りだっ! 全員で祝うぞっ!」
「おめでとーっ! 幸せになぁぁぁっ!」
どうしたものかと考えていたら、酔っぱらいたちが号泣しながら店に戻っていき、乾杯し始めた。
どうやら、ただ酔っぱらったが為の行動だったようだが、目の前の女性は素面だし、離れてもくれない。
「すまないが、君も……」
「はい。私の家は、あちらですが……我慢出来ないので、その物陰でお願いします」
「いや、そんな事はしないから、早く戻っ……っ!?」
再び店の中が騒ぎだし、何事かと思ったら、別の少女が抱きついてきた!?
「あ、あのっ! 私も貴方様のが欲しいですっ!」
「お、おいおいおいっ! その娘はまだ働き始めたばかりの見習い……そ、そういう事かっ! おい、修羅場だ! 修羅場になるぞっ!」
「ふひひっ、他人の不幸は蜜の味。これは酒が進む……お姉ちゃん! おかわりっ!」
これは……騎士団の近くだから、フョークラの薬が風に乗って来てしまったという事か!?
案の定、奥から酒を運んできた女性が、酒を放り出して俺に向かってくる。
マズい……この店に何人女性が居るか知らないが、最悪全員で向かってくる事になるぞ!?
「よ、よし! 立ち話も何だし、場所を変えよう」
「はいっ! では、私の家へ。こっちです」
「あの、私は今すぐこの場ででも大丈夫ですからっ!」
三人目の女性が近くまで来たので、先の二人を抱きかかえて走りだす。
というか、一人目は自分で抱きついてきているが……変な所を触らないでくれっ!
「……騎士団からそれなりに離れたし、そろそろ大丈夫か。二人とも、自分の家には帰れるか?」
「はい。ここを右に曲がって下さい」
「わ、私はもう限界です……は、早く下さい」
一人目はまだ理性が残っていそうなので、言われた通りに移動し、部屋に入る。
だが服を脱ぎ始めたので、すかさず閉鎖スキルで追って来られないようにした。
「えっ……これは!?」
「心配するな。少ししたら消すから。すまなかったな」
「ま、待って! もうとっくに準備出来ているし、三人でも問題ないのに、この状態で放置……あっ、そういうのですか!? わ、わかりました! でも焦らし過ぎると泣いちゃいますからねっ!」
何を言っているのか分からないが、ひとまず納得してくれたらしいので、そのまま部屋を出る。
もう一人の少女も離れてくれないが、この子は何処へ送れば良いのだろうか。
「君の家はどっちなんだ?」
「貴方様の居る場所が私の家ですぅ」
困った。
先程の女性よりも薬が強く効いているのか、会話にならない。
しかも、よく見たら既に半裸だし、その辺に置いて行くと……いや、ダメだな。
この状況でモニカたちを探すには……この女性がややこしい事になりそうだし、闇雲に動き回ってもダメだろう。
「……そうだ! 君、メリナ商会の場所を知らないか?」
「メリナって誰ですか? 貴方様の恋人? いえ、良いんです。私は二番目でも。ですが今だけは私を見てください」
やっぱり話にならないっ!
あと、耳を舐めないでくれっ!
どうしたものかと考え……閃く。
先ずはフョークラの薬が及ばない場所へ行く為、騎士団の建物から離れる。
それなりに離れた所で、分身スキルを使い、十体程分身を出す。
「この街のどこかにモニカやドワーフの女性がいるはずだ。探して見つけて欲しい。ただし、騎士団の建物付近には近付かないように」
分身を自動行動にして、街中を探させる。
先程の場所に近付くと、この少女みたいにフョークラの薬の巻き添えをくらった者に遭遇してしまうかもしれないが、そこは注意しておいたので大丈夫だろう。
あとは、この少女が俺から離れてくれれば完璧なんだけどな。
何とか少女の攻めを避けつつ、分身の報告を待つ事にした。
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