第175話 兄妹ケンカ

 ネーヴに動きを止められている間に、大男が迫って来る。

 ダメージを肩代わりする防御スキルを使用している為、最悪ネーヴがダメージを受ける事はないが、どんな攻撃をしてくるかは分からない。

 一先ず、ネーヴを守るように抱き締め、盾を構えたところで、


「貴方がアレックスさんですか。ネーヴ……いえ、スノーホワイトから聞きました。彼女を助けてくれた人だと」


 大男か深々と頭を下げてきた。

 ん? 戦っていたのではないのか?

 それに、わざわざネーヴを別名で呼ぶのもよく分からないが。


「えっと、二人の関係は?」

「スノーホワイトの兄です。スノーウィーマウンテンと呼んでいただければ」


 この大男がネーヴのお兄さんだと!?

 内心驚き、ネーヴに目をやると、


「その通りで、私の実兄だ。名前が呼び難ければ、スノーウィと呼んでもらえればと」


 頷き、事実だと認める。

 という事は、これは兄弟喧嘩なのか?


「……何故、実の兄と戦っていたんだ?」

「それは……スノーウィが私を無理矢理国へ帰そうとするから」

「言っておくが、俺からはスノーホワイトを攻撃してはいないぞ」


 これもネーヴがその通りだと肯定したので、先ずはエリーの魔法人形たちの攻撃をやめさせる事にした。

 確かに、スノーウィは防御しかしていなかったように見えるしな。


 一先ずスノーウィから話を聞くと、ネーヴは封印の地という場所で、燃やされながら幽閉されていたのだとか。

 それを毎日スノーウィが様子を見ていたが、今朝になってネーヴが居ない事に気付き、どこに行ったかも分からないので、慌てて転送装置で来たと。

 そして、夕方には召喚魔法で国へ帰る事になっているので、それまでにネーヴを説得し、一緒に帰りたい……との事だ。


「スノーホワイトを助けてくれた事には本当に感謝している。これについては、別途何か礼をさせていただきたい。だが、それはそれ。この地にスノーホワイトを置いておく訳にはいかない」

「何故だ? 言っておくが、私はアレックスに真名を聞かれ、応えている。私はアレックスの側から離れるつもりは無い!」

「何っ!? 真名を教えただとっ!? 人間族にっ!? くっ……何て事だ」


 ……ネーヴの名前を聞いた事がそんなにマズいのだろうか。

 スノーウィが思いっきり顔をしかめ、俺を品定めするように見てくるのだが。


「し、しかしだな。スノーホワイト……いや、もう知っているのなら隠す必要もないか。ネーヴよ。子供はどうするんだ!? 相手は普通の人間族だ。お前を抱こうとすればどうなるかは……」

「アレックスは、あの炎に包まれていた私を抱き締めてくれたのだ。それくらい大した障害ではない!」

「あの、鉄すら溶かす灼熱の炎に飛び込んだのか!? ……愛の力とは凄まじい物なのだな」

「うむ。愛の力で種族の壁を越え、最低でも子供を十人は作りたいと思っている」

「そうか。ならば、これ以上兄から言う事は何もあるい。この小さな身体で、俺を吹き飛ばした力といい、凄まじい愛の力といい……きっと、アレックスさんは人間族の英雄なのだろう」


 何だか俺を放って、兄妹で凄い話になっているのだが……会話に入り難い内容で物凄く困る。

 今も、手紙を交わしたのか? とか、手は繋いだのか? とか。

 ネーヴもネーヴで、手紙を送りたいが、この地に紙が無い……なんて話をしていて、


「分かった! ならば、この兄が国へ戻った後、紙とペンを持って再び来ようではないか。公務があるので頻繁には来られぬが、可愛いネーヴの為だ! 何とかしよう! ……アレックスさん。ネーヴを……妹を宜しく頼みます!」


 と、大きな手でバシバシ叩かれてしまった。


「あの、公務って……」

「あぁ。俺は今、自国で宰相補佐を行っているんですよ。とりあえず、夕方に召喚魔法で呼び戻されるまで暇なので、ネーヴがお世話になっている村を見学させていただきたいのだが」

「ならば、私が案内しよう。アレックス、構わないか?」


 西側エリア以外なら構わないと許可を出すと、ネーヴがスノーウィと共に南側へと歩いて行った。

 とりあえず、よく分からない兄妹ケンカに巻き込まれた……というか、俺が自ら飛び込んでいっただけのようだ。

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