第317話 巨人族イネスのジョブ

 柔らかくて温かく、何より優しい何かに包まれている。

 それとは違う別の何かが、優しく俺の頭を撫でてくれ、背中をポンポンと一定のリズムでゆっくりと叩く。

 とても心地良い、フニフニした何かに顔を埋め、安らぎを感じていると、


「アレックスったら! そういう事は私にすれば良いのにっ!」

「お疲れだったんだねー。次は私が旦那様にしてあげよーっと」

「こ、これからは私も、そういう事をしてあげよう……かな」


 周囲から聞きなれた声――エリーにユーディット、ステラの声が聞こえて来た。

 夢心地だったが、現実に引き戻されて目を覚ますと、最初に視界へ飛び込んで来たのは、肌色の中に浮かぶ白い逆三角形だ。

 これは何だ? 

 とりあえず身体を起こすと、


「あ、起きたんでちゅね……ごめんなさい。起きたんですね」


 女の子座りの女性が居た。

 さっきの感触は……この女性の太ももにうつ伏せで顔を埋めていて、白いのは下着って事か!?


「す、すまない。かなり疲れていて……」

「こちらこそ、すみません。裸なので、人間族の子供なのかと思ってしまって」


 割と背が高い俺を子供と思ったというのは、どういう事だろうかと思っていると、


「アレックスさん。こちらのイネスさんは、巨人族の方なんです」

「巨人族……それで、俺より背が高いのか」

「ですが私は、巨人族の中では物凄く小さくて、捨てられてしまい……」


 俺の疑問を汲み取ったステラが説明してくれたのだが、イネスが俯いてしまった。


「そ、そうだったのか。すまない」

「あ、いえ、気にしないでください。それに私はまだ成人になったばかりですし、まだ成長する可能性だってありますから」


 成人になったばかりというが、巨人族の成人は何歳なのだろうか。

 身長こそ俺より高いが、顔に幼さが残っているんだが。


「あの、アレックスさん……でしたよね? 貴方は人間族で、巨人族ではないですよね?」

「あぁそうだけど、どうしてそんな質問を?」

「いえ……なんていうか、アレックスさんの身体の大きさは人間族なんですけど、一部分だけ私のお父さんよりも凄い、巨人族級の大きさなので」


 イネスは何を言っているんだ? と思ったけど、イネスの視線が俺の……というか、俺はずっと全裸だったのかよっ!

 いや、イネスの身長に気を取られて忘れていたが、よく考えたらイネスからも裸だって言われていたな。

 大慌てで服を着て、平謝りする事に。


「あんな格好で申し訳ない。ちょっと色々あって」

「いえ。お父さん以外のを初めて見れたので……ありがとうございます」


 いや、礼を言われても、どう返せば良いか困るのだが。


「イネスちゃん。旦那様のはね、アレからまだ大きくなるんだよー!」

「そうなんですか!? 凄いですね! 是非、見てみたいです」

「いや、見せないからっ! というか、ユーディットも変な事を言わないでくれっ!」


 イネスが無邪気に喜んでいるけど、色々と分かってない気がする。


「……こほん。ところでイネスは、俺のスキルで奴隷から解放された訳だが、何処かへ行きたいとか、帰りたい場所などは……」

「いえ。成人になったその日に捨てられましたので、帰る場所なんてなくて……あの、皆さんさえ宜しければ、こちらに住まわせていただけないでしょうか。何でもしますので」

「それは構わないが……イネスは何かジョブを授かっているのか? それによって、役割が変わって来ると思うのだが」

「えっと、私は癒し手というジョブを授かっています。マッサージで気持ち良く出来るスキルらしいです」


 あー、あの起きる直前に感じた、優しく撫でられたアレか。

 確かにアレは凄かったな。

 疲れた時には、イネスに撫でてもらいたいかもしれないと考えていると、


「マッサージ!? お、お願い出来ないかしら。その、ちょっと腰が痛くて……」


 真っ先にカスミが手を挙げる。


「はい、大丈夫ですよ。でしたら、うつ伏せで横になっていただいて……いきますね」

「……おぉぉぉっ! これは効くっ! 痛みがウソみたいに消えていくーっ!」

「なんだか、随分辛そうな感じでしたけど、腰を痛めるなんて、何か重い物でも運んでいたのですか?」

「そうじゃなくて、連日お兄さんの上で激しく……あぁぁぁ、そこぉぉぉっ!」

「お兄さんの上で? お兄さんの上に乗ると何かあるんですか? ……私も乗ってみても良いですか?」

「もちろん。すっごく気持ち良……」


 とりあえずカスミの口を手で塞いで黙らせたのだが、やっぱりイネスもノーラと同じく教えてはいけなさそうだな。


「出来れば次は私もお願いして良いかな? 胸が重くて肩が凝って……」

「あ、わかります。私もお願いしたいです」

「むー……」


 エリーとステラは肩が……って、ユーディットは頬を膨らませなくても良いぞ。

 別に俺は胸の大きさがどうとか関係無いし。

 とりあえず、イネスは女性陣から大人気になったので、良かったと思う。

 ……俺も時々癒してもらおうか。

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