第318話 飲み薬のアレックスのアレ

「では、行ってくる」


 イネスのおかげで、短時間なのに熟睡する事が出来、かなりスッキリした。

 いろいろあって既に昼前だが、早く南へ……元兎耳族の村へ行かなくては。

 そう思ったのだが、カスミと共に東の休憩所を出た所で、意外な者から声を掛けられた。


「マスター。おはようございます」

「ソフィ!? どうして、ここに?」

「はい。元兎耳族の村へ大勢の方が来ており、食料に不安があるとリディアさんが仰られたので、補給しに参りました」


 あー、ラヴィニアの棲む場所を作る為に、大勢の人形を連れて行ったからな。

 それでなくても熊耳族の半分が居る訳だし……あれ?


「だが、リディアが居るのだから、元兎耳族の村の周辺で畑を作れば良いのではないのか?」

「はい。リディアさんもそう考えられ、実際に幾つか植えてくださったのですが、この魔族領の土地ほどに作物が実らないようで」

「そうなのか? 何故だ?」

「この魔族領は土の四天王が魔力で土を生み出し、埋めたと聞いております。私の推測ですが、リディアさんの精霊魔法で生やした植物は、土に魔力を多く含んでいる方が良く育つのではないでしょうか」


 もしくは……と、この地はリディアの生み出した植物以外の他の植物が無いからとか、地中に張る根っこを邪魔する石が無いから……と、いくつかソフィが仮説を話してくれたが、いずれにせよ魔族領が一番作物が作られるようだ。

 俺もソフィに同行し、人形たちと共に作物を収穫すると、シーサーの引く荷車に乗せて今度こそ元兎耳族の村へ。


「あなた! やっと帰ってきてくれたのね。昨日も凄かったわね。私……あなたの妻で本当に良かった」


 あー、そうか。兎耳族の女性たちに襲われ、フィーネや熊耳族たちの所へ分身を送る余裕はなかったが、こっちは先に出しておいたから、やる事はやっているのか。

 昨晩から今朝に掛けては大変だったが、今から求められるような事は無さそうで、ようやく本来の活動に戻れそうだ。

 そう思って、シーサーに運んできてもらった食料を倉庫にした家へ運ぼうとすると、


「うっ……」


 突然ラヴィニアが頭を押さえだす。


「どうしたんだ!? 大丈夫か!? ……≪ミドル・ヒール≫」


 ラヴィニアに治癒魔法を使ったが、効果は無さそうだ。

 どうすれば良い!? やはり海に居ないとダメなのではないだろうか。

 そう思っていると、ラヴィニア用の家の外に居たミオが何かを察したのか、来てくれた。


「むっ!? アレックス! ラヴィニアは遠くから魔法で攻撃されているのじゃ!」

「ならば、≪ディボーション≫! ……これもダメか」

「何か特殊な魔力なのじゃ。……そうなのじゃ! アレックス! 脱ぐのじゃ!」

「え? ミオ!? 今はそんな事をしている場合では……」

「違うのじゃ! アレックスの子種に含まれる魔力を与えれば、攻撃されている魔力を上回り、助けられるはずなのじゃ! ほれ、早く脱ぐのじゃ!」


 ミオにまくしたてられ、とりあえず服を脱ぐと、分身スキルを使わされる。


「アレックスは、アレをラヴィニアの口へ突っ込むのじゃ。……うむ。後は我に任せるのじゃ!」

「お兄さん! 緊急事態ね。人命救助の為に、カスミちゃんは房中術を頑張るからっ!」

「そういう事なら、オレも協力しよう。まだ会って数日だが、もうアレックスのこれ無しでは……こほん。ラヴィニアを助ける為だからな。さぁ頑張ろう!」


 ミオとカスミとバルバラが、それぞれ俺の分身と……って、あれ? いつの間にかリディアにツバキやモニカまで集まっている!?


「アレックスさん、ズルいです! そういう事をするのなら、呼んで欲しいです」

「アレックス様。母上ばかりズルいのです。もっと私にもお願いいたします!」

「ご主人様っ! 私にも飲ませて欲しいです! 前にも後ろにも!」


 それから、どうやって嗅ぎつけたのか、第一班のヴァレーリエたちに、熊耳族の少女たちもやって来て……今日の俺は、こんな事しかしていない気がするんだが。

 暫くして、ミオの言う通りアレを……かなりの回数分のアレをラヴィニアに飲ませると、


「あ、あなた……んぐっ。……美味しいわぁ! ……じゃなくて、大変なのっ! 悪魔が……海の悪魔が、この第四魔族領を狙っているわっ!」


 無事にラヴィニアが復活したものの、変な事を言い出した。

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