第844話 ツシアフィの村
マージャの街を出発し、メリナ商会の本部があるターナの街を街を目指して北西へ。
大きな街があれば、立ち寄ってメリナ商会の話を聞き、とりあえず潰す。
そこでドワーフの女性を保護し、また次の街へ。
時折人間の女性が捕らえられていたりもしたけれど、その女性は騎士団に預けて先を目指す。
六つ程の街を経てドワーフの女性が十六人になり、陽が落ち始めたところで、遠目にターナの街が見えてきた。
「ようやくターナの街だな」
「クックック。だが、アレックスよ。どうする? ここからあの街までは距離があるぞ。無理矢理突き進むのか?」
「いや、途中の街で休憩を挟んでいるとはいえ、ずっと移動しっ放しだから、皆疲れているだろう。先程の街で、ターナの手前に村があると聞いたし、そこで一泊しよう」
ブレアと話をしながら馬車を引き、小さな村を目指す。
それから少し移動すると、聞いていた通り、ツシアフィという小さな村があった。
小さな村ではあるものの、この国の中心であるターナの街へ向かう者が大勢立ち寄る為、宿などもちゃんとあると聞いて来ている。
「すまない。この村で一晩泊めていただきたいのだが、宿はどちらだろうか」
「宿なら、そこだが……何人居るんだ?」
「三十人程になるな」
「あー、そんなに大勢の人数は厳しいんじゃないか? まぁ一度聞いてみてくれ」
ひとまず宿の場所を教えてもらったものの、今の俺たちの人数を考慮していなかった。
しまったな……これなら、先程の街で一泊しておくべきだったか? だが、報復とかも面倒だしな。
各街でメリナ商会の支部を潰し、良くも悪くも目立っている。
普通の奴が相手なら問題ないが、オティーリエのように気配を察知出来ない奴が来るとマズい……そう考えて、街を出たのだが、裏目に出てしまったようだ。
「いらっしゃいませー! お食事ですか? ご宿泊ですか?」
「両方を頼みたいのだが、大丈夫だろうか? 俺を含めて二十四人居るのだが」
「に、二十……しょ、食事は問題ありません。ですが、うちには二人部屋が二つと、四人部屋が二つで、十二名しか泊まれないんです」
なるほど。宿屋の女性の話では、助けたドワーフの女性たちに絞っても難しいか。
最悪、今のまま馬車で一泊するという手もあるが、今は人が多過ぎて座席で横になる事すら出来ないからな。
流石にこの状態で一泊というのは避けたい。
「だったら、ドワーフさんたちだけで詰めて泊まらせてもらうのは、どうかしら? それで、残った人はアレックスと一緒に馬車で寝るの。もちろん、私はアレックスと一緒よ」
「父上。私はもちろん父上と一緒に馬車へ参ります!」
馬車で待機せずに、ついて来たオティーリエとモニーが、二人部屋に無理矢理泊まるという話をしていると、
「あら? もしかしてお子さんがいらっしゃるの? この子くらいの背丈なら、二人部屋に三人目として泊まっていただいても大丈夫ですよ」
モニーを見た宿の女性が、三人で泊まっても良いと言ってくれた。
ドワーフの女性たちは、全員モニーくらいの背丈なので、それならばもう少し多めに泊まれるのではないだろうか。
「実は二十四人のうち、半分以上はドワーフなんだ。この子と同じくらいの背丈だし、もう少し泊めてもらえないだろうか」
「えっ!? ドワーフ!? ……そうですね。そちらのお子さんくらいの背丈でしたら、二人部屋には三人。四人部屋には六人まで泊まっていただいても大丈夫です」
「わかった。では、それで頼む。連れて来るから、少し待っていてほしい」
という訳で、急いで村の外に停めている馬車へ戻り、ドワーフの女性たちを連れて来る。
とはいえ、万が一透明な奴や他に変な奴が居ても困るので、ミオとオティーリエ、ブレアとモニカにもついて来てもらう。
「ドワーフたちはこの十六人だ。あと、こちらの二人の女性も大部屋に泊めてもらいたい」
「なるほど。この背丈でしたら……はい、大丈夫です」
良かった。せっかく助けたのに、馬車の座席で座って一夜を過ごすなんて事にならなくて。
だが、大部屋に泊まってもらうつもりのブレアとモニカが迫ってくる。
「クケッ!? アレックス!? わ、私は馬車なのでは!?」
「アレックス殿。私も馬車で構わないのだが」
「いや、万が一の事があったら困るし、男の俺が同じ部屋に泊まるのは良くないだろう」
ブレアとモニカが何故か凄く不満そうにしているが、護衛という意味ではこの二人が適任だと思っている。
更に念の為にミオに各部屋に結界を張ってもらい、オティーリエも透明な奴はいないと確認してくれたし……これで一安心だな。
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