第816話 人攫いの方法
「~~~~っ! 奥に……えっ!? も、もう止めてしまうんですかっ!? き、綺麗にします。ですから、もっと……」
「いや、今ので解毒されるハズだ。もうこれ以上する意味はないだろう」
「そ、そんなっ! お願い致します! 何でもしますのでっ! お願いですからぁぁぁっ!」
ひとまずフョークラの毒を解毒したので、この女性から少し離れると、ブリッジしたまま泣き出してしまった。
いや、泣かれても困るのだが。
あと、ブリッジさせているのはミオの結界なので、俺にはどうする事も出来ない。
「ふむ。そこの女。肝心な事を言っておらぬのじゃ。どうやって、ドワーフの王女を攫ったのじゃ?」
「それは……ですっ!」
「む? ハッキリ言うのじゃ。それでは、アレックスのを挿れてやれぬのじゃ」
「だから……ですって!」
これは……どういう事だ?
女性はハッキリ話しているようなのだが、肝心の内容だけ声が聞こえない。
「ミオ、これは……」
「いや、もうこれで十分なのじゃ。この特定の言葉を話せなくする……隠蔽する力は太陰なのじゃ」
「太陰……天空が言っていた者の事か」
「うむ。太陰の力を使えば、確かに人攫いなど容易なのじゃ。だが、太陰が自ら人攫いなどに加担するとは思えぬのじゃ」
太陰が隠蔽する力を持つというのに、先程女性ターナの街のメリナ商会と言えたという事は、偽情報なのだろうか。
「さっき言ったメリナ商会というのは何なんだ?」
「普通の商会に見せかけて、裏で奴隷の売買をしているんだよっ! さっきから本当の事しか言ってないって! それより、お願い……もう一度! もう一度お願いしますっ!」
嘘を吐いているようには見えないので、この女性は、そこまでしか知らないのだろう。
メリナ商会というのは、おそらく偽情報か、もしくはそこまでなら知られても問題ないのか。もしくは、太陰が……とは考えにくいので、太陰の力を使っている奴が、全てを隠す事は出来ないのか。
ミオに何か分からないから聞いてみよう……って、おい。
「これぇぇぇっ! ふゎぁぁぁっ!」
「アレックスよ。もう、これ以上情報は出て来ぬのじゃ。という訳で、我の分身をこやつに譲ってやったから、新たに二体分身を出すのじゃ」
「えぇ……二体というのは?」
「勿論、我が前と後……」
「いや、それ以上言わなくていいよ」
この状態では、もう分ミオが納得しないので、出した方が早い……と分身を追加したのだが、
「アレックスー! マリにも分身さんが欲しいなー!」
「いや、ダメだろ」
「えぇーっ! じゃあアレックスのを貰うねー!」
「いやいや、マリーナにも分身はいただろ?」
「あのねー、凄く羨ましそうにしている子が居たから、譲ってあげたのー!」
マリーナが恐ろしい事を言う。
まさか、モニーに……あれ? モニーはいつも通り泣きそうな顔で、羨ましそうにしている。
当然、今のモニカはそんな反応ではないし……俺の分身は何処に消えたんだ!?
一人ずつ視界を切り替えていくと、小屋の中で二人のドワーフの少女を相手にしている分身が居た。
マリーナ……その子たちはダメだろ。
いや、一番ダメなのは俺の分身なんだけどさ。
ため息混じりに視点を戻すと……
「マリーナ!?」
マリーナが俺に抱きつきながら、激しく動く。
いや、今まで結衣に頑張ってもらっていたから、強く出る事も出来ないんだけどさ。
「アレックス殿。私は……何故混ぜてくれないのだ」
うぐ……モニカが凄い目で見てくる。
後の方は小声で聞こえなかったけど、おそらく呆れているのだろう。
ひとまず、分身を本気モードにして、全員を満足させてこれを終わらせたら、人攫いたちをドワーフの兵士に引き渡す事にしたのだが、
「あのっ! 罪を償って戻って来たら、結婚……いえ、そんな大それた事は言いません! 愛人に……どうかお情けをっ!」
「こ、こんなの知らなかったの……」
「私を貴方の奴隷にしてください」
人攫いと二人の被害者が、俺から離れてくれない。
いやあの、兵士さんたちも困っているんだが。
「ど、どうして。三人とも、俺たちには見向きもしなかったのに」
「いや、俺の向きからはチラッと見えたんだが、あの男は化け物だ。分身するし、あの回数だし、何より大蛇が……お、恐ろしい」
縛られていただけの人攫いの男が、俺に怯えているんだが……何故なんだ。
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