第817話 エルフとドワーフと狐耳族
人攫いの三人と、奴隷にされていた二人を引き渡し、改めて出発しようとしたのだが、兵士に引き止められる。
「あの、アレックス様ですよね?」
「ん? その通りだが?」
「イベール国の王女より、船で対岸へ送迎するようにと連絡が来ております。既に準備が完了しておりますので、こちらへどうぞ」
先ずはグレイスに頼んでレヴィアを迎えに行き、対岸まで運んでもらうつもりだったのだが……出航準備が出来ているというのに、無下にするのは悪いか。
「わかった。では、宜しく頼む」
兵士たちに案内されてドワーフの国の港へ。
「わぁー! お兄ちゃん! これ、かっこいい!」
「わかる! そうだな、ノーラ。これはロマンがあるな」
「うーん。マリにはわからないのー」
地上へ上がるのかと思ったら、地下から直接海に繋がっていて、秘密基地のようになっている。
しかも、ドワーフの国の船だ。
何人ものドワーフが拘って作ったのだろう。
百人くらい乗れるのではないかという程に大きな船が停泊していた。
「ほほう。この大きさの船は中々なのじゃ」
「流石にこの大きさだと、私の空間収納でも格納出来ないかもしれませんね」
「私としては、動力が気になりますー。これだけ大きな船……かなり魔力を必要とするはずですからねー」
ミオ、グレイス、フョークラがそれぞれ船の感想を呟いていると、
「あ、すみません。その船は武装もしており、流石にこれで人間の国へ行くと侵攻と勘違いされかねない為、あちらになります」
兵士たちに申し訳なさそうにされながら、別の小さな船へ。
とはいえ、レヴィアに引いて貰っている船よりは大きいが。
全員乗り込むと、ドワーフの技師っぽい女性兵士が、レバーを倒し……動いた。
「これは……水の魔石ですか?」
「えぇ、その通りです。このレバーで、船体に取り付けた複数の水の魔石に、魔力を流すのです」
「なるほど。魔力の流す量をコントロールして前進したり旋回したりするのですね。流石はドワーフの船です。凄いですね」
「いえいえ、それを魔力の流れで一目で見抜くというのは流石エルフですよ」
ドワーフの兵士とフョークラが、船の動力談義に花を咲かせている。
良かった。昨日フョークラが国の中に入れてもらえなかったから、どうなる事かと思ったが、大丈夫そうだな。
「しかし、わざわざ複数の魔石に分けずとも、この程度の魔力ならば一つの魔石で十分なのでは?」
「……大きな魔石は他にも用途がありますからね。エルフは魔石を採掘する大変さを知らないでしょうから仕方ありませんが、ドワーフの叡智と技術が優れているので、複数の小さな魔石で船を動かせるんです」
「うーん。そもそも魔石で魔力の効果を補助しなくとも、操舵手が大きな魔力を流せば済む話では? あっ、すみません。エルフみたいに魔力が多くないんでしたねー」
えーっと、フョークラとドワーフの兵士は大丈夫か?
先程までと違って、何だか険悪な感じになっている気がするのだが。
どうしたものかと、近くに居たミオに目をやると、任せろ……といった感じでウインクする。
「ふむ。この船の小ささの割に、速度が遅いのじゃ。ここは我が直接魔力を注いでやるのじゃ」
「えっ!? ちょっ……」
「案ずるな。今の我は、アレックスに大量の精……もとい魔力を注いでもらっておるのじゃ。この程度の船など、容易く動かせるであろう」
いや、どうしてミオは火に油を注ぐんだ!?
普段レヴィアの引く船に乗っているからか、遅く感じるのは確かだが、アレはむしろレヴィアが速すぎるんだからな?
「ふむ。魔力の流れは……ここなのじゃ」
「だ、ダメで……ひぃぃぃっ!」
「おぉ、良いではないか。どんどん行くのじゃ」
「と、止めてくださぁぁぁいっ!」
ミオが魔力を直接注いだそうで、レヴィア程ではないが、それなりの速度が出て……対岸には着いたものの、ドワーフの兵士からメチャクチャ怒られる事になってしまった。
「魔力の制御回路に無理矢理割り込むとか、何を考えているんですかっ!? 最悪、魔石か回路が爆発する可能性だってあったんですよっ!?」
「いや、我からすると、そんなに大きな魔力は流していないのじゃ」
「エルフや狐耳族の基準で考えないで下さいっ!」
「ま、まぁそう怒るでない。ほれ、アレックスのを見て落ち着くのじゃ」
そう言って、ミオがいきなり俺のズボンを……って、マリーナとモニーを抱っこしていて、手が使えない隙に何をしているんだよっ!
「えっ……凄い! ……って、何てモノを見せるんですかぁぁぁっ!」
「なんじゃ。これが欲しくないのか? 言っておくが、本気になったら……凄いのじゃぞ?」
「……はっ! これは通常状態……こほん。こ、ここで暫く待ちますから、帰りにお願いします」
「うむ。流石はアレックスなのじゃ。一件落着なのじゃ」
いや、マジで何をしているんだぁぁぁっ!
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