第570話 シャオリン

 地底湖に沿って北へ進むと、前に来た謎の建物が見えてきた。


「マスター、ありがとうございます。少し、探し物を致しますので、降ろしていただいても良いでしょうか」


 そう言われ、抱きかかえていたソフィを地面に降ろすと、奥へ向かって歩き出す。

 俺もついて行こうと思ったのだが、


「つ、次こそ拙者の番です! 先程のソフィ殿と同じようにお願い致します」

「……サクラ。ソフィに対抗しなくても……」

「ち、違います。シノビとして、前方を警戒しつつ、ご主人様のアレに蓋をするためです!」


 すぐにサクラがやって来た。

 その上、有無を言わさず俺のを……まぁ俺からすれば、ソフィもサクラも軽いから構わないけど、この体勢は調査には不向きだと思うのだが。


「認証しました」


 どこからともなく聞こえた無機質な声の後に扉が開き、大きな金属の箱が並ぶ部屋に来た。

 確か、前にもここへ来て、ソフィがとても大事な物に思えると言っていたな。

 あの時は、そのまま引き上げたけど、今回はここが目的の場所らしく、ソフィがキョロキョロと何かを探している。

 俺も、ゆっくりと歩くソフィについて行くと、突然サクラが身体を前のめりにして、壁を指さす。


「そ、ソフィ殿。よく、この体勢であの距離を……い、いや、それより、この右手の場所。な、何か空間が……隠し部屋が~~~~っ!」

「ここ、でしょうか? 言われてみれば、ここだけ壁の質感が異なりますね。より強固に守られているような感じがします」

「ご、ご主人様。拙者も調査に……おごぉっ!」

「サクラ様。大丈夫です。この壁から、微細な魔力の流れを感じますので、その流れを追えば……ここですね」


 ソフィが壁に触れると、壁の一部が見た事のない何かに変化し、そこへソフィが掌を重ねる。


「認証しました」


 再び誰かの声がした所で、ソフィがピクンと眉を動かす。


「こ、これです! 前に来た時は見つけられませんでしたが、サーバーに接続するコンソール端末です!」

「すまん。何を言っているか良く分からないのだが」

「かつてのキーボードやマウスと呼ばれるものではなく、魔力でデバイスとリンクする事により、直感的にデータへアクセスする事が可能です」


 うん。ソフィの話は難し過ぎるな。

 暫く様子を見る事にしたのだが、この場所が安全だと判断したのか、それとも向きが辛いのか、サクラが一瞬で俺と向き合うように体勢を変える。

 そこまでは良いのだが、自ら激しく……って、何をしているんだよっ!


「いえ、何となく時間がかかりそうだと思ったので。この時間にご主人様から可愛がっていただこうかと思いまして」

「いいなー! 私たちだけダメなの、ズルーい!」


 そんな事をしていると、突然ソフィが叫びだす。


「シャオリン! 私は……シャオリンです!」

「どうしたんだ? ソフィ」

「……はっ! し、失礼しました。少し前のデータを見つけまして……あっ! これ……発見しました!」

「おぉ! 第一魔族領へ行く為の何かが作れそうか?」

「……すみません。全くの無関係という訳ではないのですが、どうやらマスターが求めるような物ではございませんでした」


 そうか……ソフィなら、空を飛ぶマジックアイテムなどが作れるのではないかと思ったが、やはり難しいか。


「あの、マスター。私がマスターと出会う前に研究していた物を見つけたのですが、家に戻ってから続きに取り掛かっても宜しいでしょうか?」

「あぁ、それは構わないぞ」

「ありがとうございます。当時は、必要とする膨大な魔力をどうやって確保するかと悩んでいたのですが、今ならその問題が解決されています。これなら、割と早く完成させる事が出来そうです。マスター……本当にありがとうございます」


 ふむ。第一魔族領へ行く為の物ではなかったらしいが、ソフィが俺の意に反するような物は作らないだろう。

 ひとまず、ソフィが嬉しそうにしているので、来た事は無駄ではなかったと思い、地上へ戻る事に。


「……って、ソフィ。発見したと言っていたが、何も持ち帰らないのか?」

「はい。重要なデータを取得する事が出来ました。シャオリン……以前、このサーバーを使っていた頃の記憶を得る事が出来ましたので、今後は魔力を介して遠隔でアクセス可能となります」


 やっぱり何を言っているのかは分からないが、嬉しそうにしているので良しとしよう。

 ただ、玄武を助ける為の別の案を考えなければならないので、急いで戻る事にしたのだが、


「ご、ご主人様!? えっ!? 帰りは走……む、無理ですっ! あ、あぐぅぅぅっ!」


 サクラが気絶しかけているが……が、頑張ってくれ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る