第408話 間違えられるアレックス
「サクラ。カスミたちが到着するまで、どれくらいかかりそうか分かるか?」
「そうですね。かなり急いでいるのですが、まだ街も見えていない状態です」
「そうか、わかった。では到着するまで、引き続き拠点探しといこうか」
想定外の出会いから保護する事となった幼い女の子を連れてウロウロしたくはないので、早く宿なり借家なりを探したいのだが、路地の奥の方から何かが飛んで来た。
それを、サクラが短剣で叩き落したところで、女性の声が届く。
「その子を離しなさいっ! この人さらいっ!」
人攫いだと!? 一体何処に……あ、俺たちの事を言っているのか。
いや、この様子を見知らぬ者が見れば、幼い子供を攫おうとしているように見えてしまうのもわかる。
一先ず誤解を解かないといけないな。
その一方で、何かが飛んで来た先に目を向けたところで、先程の女の子が俺の手を甘噛みしてきた。
「君は何をしているんだ?」
「……ど、どうして手を離さないのよっ! 普通は思いっきり噛まれたら、痛みで手を離すところでしょっ!?」
「痛みで……って、甘噛みされたのに?」
「甘噛みじゃないわよっ! 全力で歯を立てたのに……お兄さんの手の皮が硬すぎるのっ!」
「あぁ、俺はパラディンだからな。防御力には自信がある。それより、先に向こうを何とかしないとな」
「パラディン!? それって、聖騎士……きゃあっ!」
残念ながら、俺の言葉が信用されていないのか、逃げる素振りを見せたので、女の子を抱きかかえたまま路地の奥へと走る。
もちろん走りながら女の子とジャーダたちに、パラディンの防御スキルを使用し、安全性を高めたまま路地を突っ切ると……既にサクラが攻撃してきた者を羽交い締めにしていた。
「……って、こっちも子供か」
「こ、子供じゃないわよっ! それより離しなさいよっ! わ、私のお父さんは自警団なんだからっ! 悪者なんて、全員捕まえられるんだからっ!」
「そうだな。是非、そうあってもらいたいな。サクラ、そっちの子は離してあげよう」
「えっ? ……や、やっぱり私のお父さんが怖いのね! そっちの女の子も離しなさい!」
「いや、この子は……ちょっと訳ありでな。そうだな……俺たちを自警団に案内してくれないか? 自警団と話がしたいんだ」
「自首? まぁいいわ。ついてらっしゃい」
うん。新たに現れた子は、親の影響もあってか、正義感が強い少女のようだ。
ただ、今のが俺たちではなく本物の人攫いだった場合、巻き添えで一緒に攫われていた可能性が高い。
少女には悪いが、自警団員だという親には、危険性を伝えておかないとな。
「ちょ、ちょっと! 自警団には突き出さないって約束したじゃないっ!」
「その約束を破って、先に逃げ出そうとしたのは誰だ?」
「そ、そんな事言っても、チャンスがあれば逃げ出そうと思うでしょ!?」
「そう言われてしまうと、俺がエリラドの街で住む所を与えても、逃げ出してしまうのではないか……と思ってしまうのだが」
「えっと……も、もう逃げないから! お願い! だから自警団には……えっと、えっと、お、お尻触らせてあげるから!」
まず、保護したこっちの子の考えを改めさせるのが先か。
こんな年齢で、そういう発想にならなければならない環境が悪いのだろうが、もっと健やかに育ってもらいたい。
「お嬢ちゃん。あのね、お兄さんはお尻を触るよりも、大きな棒を……」
「ストーップ! ジャーダはこの子に何を教えようとしているんだよっ!」
「え? お兄さんが喜びそうな事だよー? する側のお兄さんも、される側のこの子も気持ち良くて、皆ハッピーだよね?」
幸い、女の子は意味を理解出来ずにキョトンとしていただけだが、この子だけでなくジャーダにも考えを改めてもらう必要があるというか、いろいろ教えないといけないのか。
頭を抱えたい気持ちを押さえながら歩いていると、案内してくれていた少女が足を止める。
「着いたわ。ここが自警団よ。……お父さーん! 人攫いの人たちが自首したいってー!」
「違ーうっ!」
自警団の詰所へ入ったところで少女に大声で叫ばれ、誤解を解くのに、そこそこ面倒な事になってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます