第409話 腐りきっている自警団

「あー……とりあえず、うちの娘の話とアンタたちの話を纏めると、身寄りのない子供を見つけたから、保護して欲しいと。で、それが無理なら、お前が運営している孤児院で預かると……そういう事か?」

「そういう事だ」


 少女に案内されて自警団へ来たものの、最初に人攫いと言われたせいか、かなり疑いの目を向けられている。

 とはいえ、こういう手続き的な事をちゃんとやっておかないと、本当に人攫いになってしまうからな。


「……で、そっちの女の子は、本当に攫われた訳じゃないんだな?」

「うん。というか、攫われたなら、自警団に来ないでしょ」

「そりゃまぁそうか」


 俺から財布を盗もうとした女の子も、今度こそ考えを改めたのか、俺に話を合わせるようだ。


「わかった。とりあえず、手続きをするから奥へ来てくれ。お嬢ちゃんは、そっちの部屋で待っていてくれ。あと、ツレのお嬢さん方も、そのお嬢ちゃんと一緒に、そっちへ。あと、お前は家に帰るんだ」

「えぇー、せっかく案内してきたのにー」

「近頃は物騒なんだよ。正義感が強いのも良いが、あまり首を突っ込み過ぎないようにするんだぞ」

「はーい」

「じゃあ、アンタはこっちへ」


 案内してくれた少女が家に帰らされ、女の子とジャーダたちが左の通路へ。

 それから、自警団の男と俺が右の通路へ移動する。

 地下に続く階段を降りるように言われ、薄暗い部屋へ。


「ったく。アイツは誰に似たのやら。危ないったらありゃしない」

「そうだな。家に帰ったら娘さんに、もう少し注意してやってくれ」

「あぁ、そうするよ……あぁ、悪いがその剣を預からせてくれないか? この中には武器を持ち込んではいけない規則なんだ」


 男と話し、剣を渡すと……バタンと扉が閉められ、鍵まで掛けられてしまった。


「おい。これはどういう意味だ? ここは自警団なのだろう?」

「ん? あぁ、その通りだが……悪いな。自警団ってのはな、極一部の正義かぶれと、長い物に巻かれて旨い汁を吸いたい奴らの集まりなんだよ。俺も入団当初は正義に燃えていたが……家族を養うためには仕方ないのさ」

「つまり、このベイラドの自警団も、腐っているという訳か」

「すまないな。俺も組織の歯車の一つだ。上の命令には逆らえないんだよ」

「……あの女の子はどうする気なんだ?」

「さぁな。あの左側の通路の先は、俺たちのボスの部屋に繋がっている。どうするかはボス次第だ」


 はぁ……そういえば、マミがシーナ国の自警団は腐っていると言っていたが、王都も同じだったか。

 他の街の自警団のように、闇ギルドが関与しているかどうかまでは分からないが、とりあえずそのボスとやらは殴っておくか。


「なぁ、アンタ。娘を育てる為というのは分からなくもないが、娘に胸を張って自分の仕事の事を話せるか?」

「……うるせぇよ。女を三人も侍らしているお前に何が分かる! そういう事を言いたければ、子供を育て、養ってから言いやがれ! 何が孤児院を運営しているだ! どうせ嘘だろうが!」

「悪いが、孤児院の話は本当だ。あと、確かに自分の手でまだ子供は育てていないが、妻が子供を身籠っているのと、子供なら何人も養っているよっ!」


 とりあえずここから脱出しようと鉄の扉にタックルすると……あ、一発で扉が吹き飛んだ。


「は? お前……どうやって魔法を使ったんだ!? ここは魔法を封じるマジックアイテムを設置しているのに」

「魔法は使っていないぞ? ただ体当たりしただけだ。一先ず、剣は返してもらう」

「お、おい……ぐっ!? な、何て力なんだ!? だ、誰か……」

「アンタは仕事だから仕方ないと言っていたが……とりあえず、娘さんの為にも目を覚ましてもらいたいものだな」

「え? ――ぐはっ!」


 かなり手加減して、しかも鎧の上から男の腹を殴っておいた。

 さて、サクラが居るから大丈夫だとは思うが、あの女の子たちを助けないとな。

 地下から出ると……あれ? 俺が手を下す前に、自警団の者が倒れまくって居るんだが。


「あ、お兄さーん! あのね、変なオジサンがボクの胸を触ろうとしてきたの! で、サクラちゃんがそのオジサンを刺して、いっぱい男の人が来たから、向かって来た人を全員蹴っておいたよー!」

「お、そうか」


 あれだけの脚力を見せたジャーダの蹴り……かなりヤバそうな気がするんだが。

 とりあえず、鎧に穴が開いている者が多数居るが、命に別状は無さそうなので、ジャーダに案内してもらって左の通路を進むと二階へ。


「お、お兄さん。女の子を人質に取られて、サクラさんが……」

「わかった。二人はここで待っていてくれ」


 ジョヴァンナの言葉を聞いて奥の部屋へ行くと、自警団員らしき男が女の子を羽交い絞めにして剣を突きつけ、サクラと対峙していた。

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