第407話 王都ベイラドの日常?

 突然走り出したジャーダを追いかけ……屋台の前で、串焼きを見つめて止まっていた。

 まぁ実際、朝食も食べずにここまで走って来たからな。

 とりあえず、遅めの朝食にしようか。


「ジャーダ。どれが食べたいんだ? 好きなのを買おう」

「えっ!? お兄さん、良いの!?」

「あぁ。俺も腹が減ったしな。……ん、これか? すまない。これを四本もらおう」


 大きな肉の塊を炭火で焼いた、肉串? を人数分買うと、追いかけて来たジョヴァンナとサクラにも渡し、皆で食べる。

 普段はメイドさんたちやリディアが作ってくれる、しっかりした朝食だけど、たまにはこういうのも良いだろう。

 ……肉しかないので、リディアがいたら野菜も食べないとダメだと怒られそうだが。


「ふぅ、美味しかったー! お兄さん、ありがとー!」

「満足してくれたのなら良かったよ。ただ、ジャーダ。ここからは俺と手を繋いで歩こう。かなり大きな街だし、逸れると厄介だ」

「はーい!」


 無邪気なジャーダと手を繋ぐと、先ずはサクラのいう通り宿を探す事に。

 だが王都というだけあってか、人が物凄く多いのと、街も広いからどこへ向かえば良いのやら。

 そんな事を考えていると、宿を探して看板ばかり見ていたからだろうか。

 前から来た子供にぶつかってしまった。


「う、うわー」

「ごめんよ。大丈夫かい?」

「うん。こっちこそ、ごめんなさい。じゃあねー」

「……ふぅ。どうしたものか……とりあえず、話を聞こうか」


 十歳くらいの幼い女の子が、何事も無かったかのように俺の傍から離れようとしたが、しっかり腕を掴んで離さない。


「な、何!? へ、変態! この人、変態です!」

「うるさい。アレックス様に向かって何を言う! 今すぐ自警団に突き出しても良いのだぞ?」

「うぐ……な、何の事だか、さっぱり分からないんだけど」

「私もアレックス様も節穴ではない。未遂でも泥棒は泥棒だ」


 サクラ。いくら俺の財布を盗もうとしたからと言っても、相手は子供だからな?

 少し、穏便にいこう。


「とりあえず、そっちの人気の無い路地へ入ろうか。話を聞かせてもらおう」


 あまり目立ちたくはないので、人気の無い場所へ行くと、すぐに女の子が謝りだす。


「うぅ……み、見逃してっ! そ、そうだ! エッチな事してあげるからっ! ね、許してっ!」

「お前……周りが見えてないのか? アレックス様の傍に、成人女性が三人も居るのだ。お前のような子供が出る幕はない」

「で、でも、実は言えないだけで、私みたいなのが好きなのかもしれないでしょ?」

「お前、我々三人にケンカを売っているのか?」


 サクラ。相手は子供だ。子供だからな? 短剣を取り出そうとするのは止めような。

 ちなみに、俺の隣に居るジャーダもジョヴァンナも、何の事か分かって居ないようで、キョトンとしているが……とりあえず、空気を読んでくれているのか、それともお腹が膨れているからか、どこかへ行ったりはしなさそうだ。


「……君は、いつもこういう事をしているのか?」

「……だって、こうするしか生きて行く術がないもん」

「両親は?」

「知らない。孤児院で育ったから。けど、その孤児院も院長先生が亡くなった後、潰されちゃったし……」


 なるほど。孤児院が……


「って、ちょっと待った! 孤児院が潰れたっていうけど、その孤児院には何人くらいの子供が居たんだ!?」

「……たぶん、全員で二十人くらい? 私みたいに暮らして居る子が殆どで、街を出た子とか、誰かに貰われた子とか……どうなったのかは知らない」


 くそっ! この国は本当にメチャクチャだなっ!

 自警団に相談して、ダメだったらエリラドのケイトの孤児院へ送る必要があるけど……分身を使って送るのはもうやめておこう。


「はぁ……君には二つ選択肢をあげよう。一つは改心して、真面目に生きる道。もう一つは、自警団に突き出されて牢屋で暮らす道だ」

「そんなの選択肢でも何でも無いじゃない! それに、真面目に生きるって言われても、その生きる為の術がないんだもん!」

「真面目に生きると誓うのなら、俺が住む場所と食事を与えよう。ただ、この王都ではなく、エリラドの街へ行ってもらう事になるが」

「だから、選択肢がないんだってば。お兄さんが、私に生きる道を与えてくれるなら、私はその道で生きるわ」

「わかった。後で俺の仲間がこの街へ来る予定になっている。その後、エリラドへ行こうか」


 そう言って、女の子の頭をポンポン撫でると、ぎゅっと抱きついてくる。

 話していた通り、好きで泥棒まがいの事をしていた訳ではないのだろう。

 しかし闇ギルドとか以前に、酷い有様だな。

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