第406話 足が速いジャーダとジョヴァンナ

 ジョヴァンナにおんぶされたまま、ウラヤンカダの村の村を通り過ぎ、街道へ。


「ジョヴァンナ!? もう村は通り過ぎたぞ!? と、止まらないのか!?」

「だって走るのが楽しいんですー!」


 あ、足が早くて移動が助かると思っていたけど、これはダメなパターンだ。

 ジョヴァンナには悪いが、飛び降り……って、思ったよりしっかり俺の身体を固定しているな。

 というか、ジョヴァンナは物凄く力が強くないか?


「お兄さん。落ちたら怪我じゃ済まないかもしれないから、しっかりつかまっていてねー」

「いや、俺はさっきの村で止まって欲しかったんだが」

「なるほどねー。けど、前に大きな街が見えてきたよー? あっちに行ってみようよー!」


 え? 大きな街……って、あれは何という街なんだっ!?

 メイリンの人形を連れて来ていないし、情報が何も無いのだが。

 そんな事を考えていると、何処からともなく視線を感じる。


「ねー、ママー。馬車より速く走っている人が居るよー! ……本当だってばー! ねー、ママー、寝てないで見てよー!」


 よく見たら、大きな街道に合流しており、小さな馬車が並走していて、窓から子供が俺たちを見ながら叫んでいた。

 何処の街かは分からないが、目立つのは良くないな。

 だが、ジョヴァンナは更に加速し、並走していた馬車を追い抜き――御者をしている老人から物凄い表情で俺たちを見られたが――あっという間に街の近くへ。

 街道も馬車で混み始めたが、ジョヴァンナが華麗なステップで抜き去って行き、街の門までやってきた。


「ゴール! ふー、楽しかったー!」

「楽しむのも良いのだが……いや、それよりここは何処だ?」

「アレックス様。どうやら、ここは馬車専用のようで、向こうに人用の通路があるみたいです」


 ジャーダに運んでもらったサクラも合流し、四人で通路の方へ向かう。

 おそらく、馬車は荷物の確認などがあって時間が掛かるのだろう。

 通路の方は全く人が居なかった。

 とはいえ、ちゃんとチェックはされるらしく、少し進むと二人の兵士に止められる。


「ん? 見ない顔だな。何者だ?」

「俺たちは冒……商人ギルドの者だ。登録証も持っている」

「ふむ。では通行料をもらおうか。四人だから……これくらいだな」


 随分とアバウトだな。

 まぁ文化や風習は場所によって違うだろうから、そこに文句を言っても仕方ないが。


「これで足りるか?」

「うむ。良いだろう。C級冒険者のアレックスか。これから、王都の街を出入りする時は、この門を使うようにな」

「ん? 王都? ここは……王都ベイラドなのか!?」

「何を今更……お前たちは、王都で商売をする為に来たのではないのか? ……しかし、その割には何も荷物が無いな」

「あ、いや。ただ道に迷っただけなんだ。こ、これから商売をしようと思って居るんだ」


 しまった。せっかく通って良いとなったのに、変な事を言って止められたら面倒な事になる。

 適当に話を合わせ……ようやく街の中へ入れた。


「ジョヴァンナ。王都に連れて来てくれて、ありがとう」

「え? あ、あはは……えっと、ただ適当に走ったら着いただけなんだけどねー。あははは……」

「ジョヴァンナー。お兄さんが困ってたよー? あと、ボクに乗って居たお姉さんも、困っていたし。ちゃんと、止まってって言われたら、止まらないとダメだからねー?」


 サクラも降りようとしたが、降りられなかったのだろうか。

 それとも……いや、まぁいいか。

 それより、せっかく王都へ来たんだ。ウラヤンカダの村へ戻る前に、闇ギルドを潰しておこう。


「アレックス様。今、母上たちがこのベイラドへ向かっておりますので、我々は拠点探しを致しませんか?」

「カスミたちが? どうして王都へ向かって居るんだ?」

「はい。ウラヤンカダの村を通り過ぎる際に、ジャーダ殿の力が思いの外強くて抜け出せなかったので、分身の術を使いました。分身を使って、今の状況を説明済みです」

「なるほど。流石だな」


 俺も華麗に分身を使いこなしたいものだな。

 せっかく十体近く出せるのだから、カスミのように闇ギルドの捜索が十倍速く出来そうなのに。


「あ! お兄さん、見てー! あっちに美味しそうなのがあるー! ボク、いっぱい走ったからお腹空いちゃったー!」

「って、ジャーダ!? 勝手に動かないでくれっ!」


 ……わかった。ジャーダとジョバンナは、かなり自由過ぎて、手を繋いでおかないと勝手にどこかへ……って、足が速いっ!

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