第348話 王都へ向かう馬車の中

「では、行って来る。マミ、ジュリ……悪いが、リディアの人形の件は頼む」

「任せるポン」

「アレックスさん。また私の家に寄ってくださいね」


 助けた少女たち三人を含め、皆で朝食を済ませると、乗合馬車でシーナ国の王都ベイラドへ向かう事に。

 ただ、今回もレヴィアが俺から離れようとしないため、一緒に連れて行くのだが、水を出せる者が居なくなってしまうので、メイリン経由で依頼し、リディアの人形を連れて来てもらう事に。

 あとマミとジュリには、その際にユーリを魔族領の家に連れて行ってもらう。

 ユーリにも娘が居て、ユーディットがみてくれているとはいえ、長期間離れ離れにはしない方が良いだろうしな。


「父上。私はご一緒させていただきますので」

「そうだな。レナはここに残って、建築家とやり取りしたり、ポーションを作ったりするから、ツキが来てくれないとメイリンたちと連絡が取れなくなる。だから、むしろツキにはついて来て欲しい」

「勿論です。父上に断られてもついて行くつもりでしたから」


 ケイトとジスレーヌ、レナとミーア、それから三人の少女を残し、乗合馬車の停留所へ。

 王都行きのキップを三枚買い、レヴィアとツキと共に馬車へ乗り込むと、移動の時間を使い、ツキを介してメイリンに状況を伝えておく。


「父上。一先ず、メイリン母上は父上の進路について承知したとの事です」

「わかった。魔族領や元兎耳族の村の開拓状況について聞いてくれないか?」

「はい……魔族領については、特に変わりなしとの事です。強いて言うなら、そろそろステータスアップ・ポーションの材料がなくなってしまうので、父上に戻って来て欲しいとレイ殿が言って居るそうです。あと、ソフィ殿が魔力の心配をしており、ボルシチ殿も胸が張って困ると」


 あー、いずれも困る奴だな。

 ボルシチは、最悪他の者に絞ってもらえば体調不良を回避出来ると思うが、レイのポーションは商人ギルドが待っているし、ソフィの魔力が尽きたら、地下の湖から水を汲み上げるポンプが止まるし、魔導列車が使えなかったりと、いろいろと不便だな。


「それから、フィーネ殿とテレーゼ殿、カスミ殿とヴァレーリエ殿が、父上に早く戻って来て欲しいと。もう限界だと言っているそうです」

「……何が限界なのかは聞かないでおこうか」

「そうですね。あと、メイリン母上が父上にお話ししたい事があるとか」

「メイリンが? 何だろうか……わかった。レイやソフィの事もあるし、出来るだけ早く帰ると伝えて欲しい」


 ツキと話をしていると、レヴィアが「ツキとばかり、ズルい!」と言って頬を膨らませたが、膝の上に乗せてやると笑みを浮かべて静かになったので、再びメイリン経由で状況を聞くのだが、


「レヴィア。あのな、ここは馬車の中だからな?」

「……知ってる。何か問題ある?」

「あるよ。他にも乗客が居るだろ?」

「大丈夫。こっちを見てないから」

「そういう問題じゃなくてだな……」

「あと、レヴィアたんは静かにやるから……んっ」


 いや、小さいけど音がしているってば。

 膝の上に乗せたのが失敗だったのか、レヴィアが何度も……って、前に座っている乗客が、振り向いてこっちを見てる!?


「ふふっ、可愛い娘さんですね」

「違う。レヴィアたんは、アレックスの妻……」

「そ、そうなんですよ。あ、甘えん坊でして」


 お婆さんに思いっきり見られた上に、声まで掛けられたじゃないか。

 それでも俺に抱きつき、キスを繰り返すレヴィアを一旦膝から下ろし、隣へ座らせると、


「むー。レヴィアたんはアレックスの奥さんなのと、チューしかしてないのに。……じゃあ、膝枕してー」

「まぁそれくらいなら構わないが……」

「ん。……えいっ」

「えいっ……じゃない! 何処を触って居るんだよ」

「触ってないもん。頬ずりしてるだけだもん」


 レヴィアが変な所に顔を埋め、スリスリしてくる。

 いや、まだ王都まで時間が掛かるだろうし、やめて欲しいのだが。


「えっと、父上。報告の続きなのですが……」

「す、すまない。頼む」

「カスミ殿からメイリン母上経由で連絡があり、調査が完了したので第一休憩所から南へ向けて、シーサー殿による砲撃で道を作りたいが構わないか? との事です」

「調査の結果、誰にも被害を与える事がないのであれば、良しとしよう」

「承知しました。メイリン母様へ伝えておきます」

「あぁ……って、レヴィア! それ以上はダメだっ!」


 頬ずりで止まらず、舐めようとしていたレヴィアを止めると、再び俺の膝の上に座らせる事にした。

 ……とりあえず、馬車の中っていうのは勘弁してくれよ。

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