第924話 蟻人族の習性

「子種! 欲しいっ!」

「ま、待ってくれ! どうして、こんな事を……」

「巣にいる蟻人族は全員女王の子供。つまり全員に血の繋がりがあるのに、近親相姦は許されない。だから、ほぼ全員が未経験のまま一生を終える……そんなの嫌っ!」


 えぇ……だからといって、襲わないでくれ。

 ひとまず、今の話で、先程の将補の妹という意味はわかった。

 この二人に限らず、これまで出逢った蟻人族全員が兄弟なのだろう。


「私たちはみんな、子作りの知識も欲望もあるのに、一切解消されない。だから、欲求不満」

「俺には妻がいるんだが」

「大丈夫。蟻人族は多夫多妻制。蟻人族の男性は、女王が亡くなったら巣から離れて、他の蟻人族の巣へ子作りしにいくし、その巣に居る女性たちも受け入れる。だから、何の問題も無い」

「それなら、この巣にも他の蟻人族が来るんじゃないのか?」

「ダメ。女王が健康な内は、他所から来た男性は全て女王が相手をする決まり」


 蟻人族の習慣というか文化はよく分からないが、上からの命令は絶対順守という事なのだろうか。

 とりあえず、規律を絶対に守ろうとしている感じはする。


「ちょっと待った。今の話からすると、君は他所から来た男性……つまり俺に手を出してはいけないのでは?」

「それは、蟻人族の男性の話。あなたは蟻人族じゃない」

「確かにそうだが……しかし、俺の方に問題があるんだが。ここに妻のレヴィアがいるし、そういう事をする訳には……」

「ん? どうして? 奥さんは休んでいるし、私とは子作りするだけで、結婚しなくても大丈夫。生まれた子供は私が責任を持って育てる。決して迷惑は掛けない」


 いやいやいや、そういう問題ではないから!

 というか、その子作りするだけ……が一番問題なんだって。

 種族の違いというか、文化や考え方が違うからか、話が噛みあっていない気がする。


「だが……」

「……アレックス。分身すれば解決」

「いや、そういう問題ではなくて……ってレヴィア!?」


 気付けばレヴィアが寝転んだまま、こっちを見ていて……いや、止めてくれよ。


「奥さんであるレヴィアたんが許可する。子作りして良い」

「ありがとう! では……はぅっ! す、凄いっ!」


 くっ! レヴィアの承諾を得たからか、蟻人族の女性が抱きついたまま一気に……しかも、一心不乱に動く。

 レヴィアは、ずっと無理をしていたのか、羨ましそうな目で俺を顔を見上げてくるものの、起き上がる気配はない。

 ……流石に心配になるな。


「レヴィア、大丈夫か?」

「問題無い。それよりアレックス。早く分身。レヴィアたんもする」

「いや、レヴィアは気を失っていたから気付いていないだろうが、かなり無理をしていたはずだ。暫く休んで欲しい」

「……目の前で見せつけられながら休むなんて無理」


 うっ……そう言われると返す言葉が無い。

 蟻人族の女性に抱きつかれた状態で、少し辛そうなレヴィアと話すのもどうかと思い、分身を一体だけ出すと、そちらへ意識を移してレヴィアの横に寝転ぶ。


「……アレックスが分身した。じゃあ、レヴィアたんも……」

「いや、そういう事ではなくて、ゆっくり休んでもらおうと思って」


 レヴィアの隣で小さな頭を撫でていると、傍にいる事で安心したのか、再びレヴィアが目を閉じて眠り始めた。

 ひとまず、これでレヴィアを休ませられる……と思ったところで、違和感を感じて視線を動かすと、寝転んだ俺の上に知らない女性が座っていた。


「人間族の男って凄い! 大きくて、沢山出して、おまけに増える! 早く増えて!」

「えっ!? ま、まさか、この女性たちは……」

「今、子作りしてもらっている子の姉妹。私たちも、子種が欲しい。人間族が巣に来るなんて、十年に一度……いや、二十年に一度くらいのチャンス。絶対に子種を貰う」


 改めて見てみると、いつの間にか部屋の中に人間の女性や少女にしか見えない蟻人族の女性が三十、いやもっと居るんだが!


「早く増えて」

「気絶したら交代のルールね」

「何人まで増える事が出来るかわからないし、とりあえず子種をもらったら交代にしない?」


 奥の方で大騒ぎになっているんだが……将補さんの答えを聞く事は出来るのか!?

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