挿話166 混乱する蟻人族の将補
「わかりました。では、そのように取り計らいます。母上様」
将軍である兄上と共に、母上へ伺いを立て、あの人間族の男への対応が決まった。
かなり難しい課題が課せられたが、妻を助ける為だ。
きっと何とかするだろう。
ただ、妻を人質に取っているようで気が引けるが。
ひとまず客人に母上……もとい女王様の答えを伝えるべく、客室へ来たのだが、何か様子がおかしい。
「ん? この臭いは何だ? それに、妹たちが大勢……何があったんだ?」
「将補様……大変です。あの人間族の男……」
「むっ!? やはり何か不埒な行動をしたのか!?」
妹が顔を紅く染め、四つん這いになってやってきた。
腰か脚を痛めているのか、立てないようだ。
一体何をされたというのだ!?
「教えてくれ。あの人間族に何をされたのだ!?」
「こ、子種をいただきました。さ……最高ですっ!」
「子種を? それは良い事だが、どうして震えているのだ? 私はした事がないから知らないが、女王様からはほんの一瞬の事だと聞いているのだが」
「ち、違うんです。あの男性は……アレックス様は凄いんです。奥の奥まで届いて、思い出すだけで……はぅっ!」
突然妹が身体を身震いさせ、二十年近く一緒にいて、今まで一度も見た事のない歓喜の表情を浮かべる。
何だ? 一体何が起こっているのだ!?
ただ、子種をもらったというのは本当のようで、体内にあの人間族の魔力を感じる。
訳がわからず、慎重に進んで行くと、今度はあの人間族の男が、比較的幼い妹を抱きかかえていた。
妻を運んでいた時と同じ抱きかかえ方だが、何か今があるのだろうか。
「客人よ。長らく待たせてすまなかったが……それは何をしているのだ?」
「将補様……ダメ。今は邪魔……しないで」
「むっ!? 邪魔だと!?」
「だ、大事な時。もう少し……もう少しで凄いのが来る。それまで待っ~~~~っ!」
「凄いのとは何だ!? 何が来るんだっ!?」
だが、妹が将補である私の問いに答えず、全力で人間族の男にしがみつく。
私の言葉を無視したり、邪魔だと言ったり、前代未聞の事ばかりだ。
それに何かが来ると言っていたが、周りを見渡しても誰かが来た気配はない。
わからない……わからない事だらけだ。
妹がぐったりすると、人間族の男が床に下ろし……無言で奥へ消えて行った。
どうして何も喋らなかったんだ?
それに、腹の辺りから丸太のような物が飛び出ていたが、大丈夫なのか!?
「将補様。お待たせしました。ご用件を」
「いや、あの人間族の男に用事があるのだが、立ち去ってしまったからな」
「今のはアレックス様の分身です。話をされるのであれば、一番奥にいる本体と話してください」
分身!? いや、あれだけの魔力を内包していたのだ。
竜人族を妻にするくらいだし、何が出来てもおかしくない。
とりあえず、妹に教えてもらった通り、部屋の奥へ進んでみると、妹たちが何人もぐったりして床に伏していたら、先程のように抱きかかえられていたり、四つん這いだったり、人間族の上に座っている。
「これは何だ?」
「将補様。見ての通り、我ら一同で種付けしていただいております」
「ふむ。人間族の種付けは大変なのだな。しかし、ぐったりしているのは何故だ?」
「人間族の雄は、簡単に種付け出来ず、激しい動作を繰り返す必要があるのです」
「そうなのか。わかった。では、全員孕むまで頑張るように」
「はいっ! では、私ももう一度行って参ります」
近くに居た妹に話を聞き、本体の居場所も教えてもらい……
「お主が本体で間違いないか?」
「あぁ。すまない。こんな事になってしまって」
「ん? 種付けをしてくれているのだろう? 我々としてはありがたい事なんだが」
「そ、そうなのか?」
竜人族の少女を抱きかかえた人間族の男が、何故か困惑している。
未婚の雌は、他の巣の雄から子種を貰うのが当たり前だが、人間族は違うのか?
「まぁいい。それより本題に入ろう。我らの女王様からのお言葉だ……ハヤアキツヒメの事を知りたくば、三つの要求に応えよ……との事だ」
妻の命が掛かっているのに申し訳ないが、女王様からの命は絶対だ。
どうか頑張って欲しい。
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