挿話95 浄化される悪魔のレヴィアタン

「ん? 気付けば海が暗い……夜になっていたのか」


 アレックスという規格外の人間族の所へ送ったラヴィニアを操作出来なくなり、どうしたものかと考えている内に半日程過ぎてしまったらしい。

 暗い海を泳いでも楽しくないので、とりあえず今日はここで寝るとしよう。

 食事は……まぁ我が居る時点で魚の類は逃げるから、貝でも食べるか。


「……今居る場所が河口だからか、小さな貝しか居ないな。こんなもの食べても、食べた気にならん」


 仕方ない。明日の朝、明るくなったら沖へ魚を食べに行くか。

 それより、アレックスだ。

 ラヴィニア経由で、我にあのようなものを咥えさせるとは。

 し、しかし、ラヴィニアからは凄まじい快感を得られた。

 いっそ魔王の配下から抜け出し、アレックスの元へ……いやいや、流石にそういう訳にもいかぬだろう。

 だ、だが、既に竜人族を娶っているようだし、竜人族がもう一人増えた所で問題無さそうな気もする。


「……ん? この芳醇な香りは……アレックスの子種!? どうして、ラヴィニア経由で覚えてしまったあの香りを……おぉぉぉっ!? あ、あの海中に漂う白い物から香るが、まさか……っ! 旨いっ! やはり、ラヴィニア経由で味わった、アレックスの子種ではないかっ!」


 流れて来た白い液体を周囲の水ごと丸飲みしたが……の、飲んだだけで身体が熱くなるっ!

 こ、これは……魔力が溢れてくるのかっ!?

 そうか! ラヴィニアは何十回と、このアレックスの子種を飲んでいた。

 一口でこれだけ魔力が溢れてくるのだ。あれだけ大量にアレックスの子種を飲めば、あのラヴィニアの小さな魔力も大きく膨れ上がり、我の支配を跳ね飛ばすかもしれん。

 今日、ラヴィニアを操作出来なくなったのは、こういう理由だったのか。


「しかし、どうして海にアレックスの子種が……むっ!? また来たぞ! ……うむ、旨い! 力が……力が湧いてくるぞっ!」


 今の子種も、あちらから……川かっ!

 そうか、おそらく湖でアレックスとラヴィニアが交わっているのだろう。

 あれだけ大量に出すアレックスだ。ラヴィニアの小さな身体から溢れ、零れたものが流れて来たという事か。

 という事は、暫く河口で待っていれば……来たっ! このように、アレックスの子種を沢山飲めるという事だ。


「ふふふ……旨い。出来れば、我も直接飲みたいものだが……いやいや、相手は人間族だしな」


 いろいろと葛藤しつつも、川が小さすぎて登れないし、面倒になってきたので、川から流れ込んで来る水を全て飲んでしまう事に。

 時々、小魚とかも胃に入って来るが、まぁ問題ないだろう。


「……ん? 気のせいか、アレックスの子種以外の液体が混ざっているような……これは何だ?」


 アレックスの子種は味が濃厚で、芳醇な香りがして、飲むと魔力が増える。

 だが、その子種と共に透明な液体が我の中に入り込んでいて、何というか……飲むと身体の具合が悪くなっている気がする。

 でもアレックスの子種は飲みたい。よく分からない液体も一緒に飲んで居るが、まぁ今日は寝るだけだし、大丈夫であろう。

 そのまま暫く、子種と謎の液体を飲み続けていると、


「うぐ……な、なんだ? 謎の液体の中に、時折強烈なのが混じって来るな」


 これが一体何なのかは分からないが、無色透明なのに非常に濃い液体が混じっている。

 まさか、我がここに居る事に気付いて毒を!? ……いやいや、我に毒など効かぬ。

 では、これはなんだ!? そろそろ飲まない方が良い気もするのだが、それだとアレックスの子種が飲めない。


「つ、次の子種で最後にしよう。そろそろ本格的にマズい。いくら旨い子種を飲めても、一緒に変な物まで飲んでしまってはな。……よし、これで最後……っ!? ぐぁぁぁっ! また先程の強烈なものも飲んでしまった!」


 苦しい。身体の中から浄化されているような……はっ! ま、まさかこれは、聖水っ!?

 しかも、並の聖水ではない! 物凄く浄化作用の高い聖水だっ!

 だが、我を苦しめる程の高品質な聖水を大量に川へ流すなど……一体誰が!? あぁぁぁっ、最後の強烈なのが致命傷に……こんな、こんな終わり方なのかっ!?


……


 眩しい朝日で目を覚ます。

 どうやら、砂浜で眠っていたらしい。


「あ、あれ? 私はどうして、こんな所に? えっと……そうだっ! 魔王軍が私たちの村に攻めて来て、私だけが生き残ったんだ」


 どうして、あんな悲しい事を忘れてしまっていたのか。

 どうして、こんな場所に居るのか。

 何か、ここ数十年の記憶がポッカリと抜け落ちているような気がする。

 私の――竜人族の海竜種の村があった場所はどこだろう。

 何も分からないけど、この川を上った所に凄く大切な……大切な誰かが居る気がする。

 私は海竜の姿ではなく、本来の――人の姿で川を上って行く事にした。

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