第416話 六合の力

 現れた兎耳族の女の子をよく見てみると、十歳くらいに見える。

 いくらあの兎耳族とはいえ、流石にこの年齢はダメだろう。


「お嬢ちゃん。ここに居る女性たちは、ちょっと大変な状態なんだ。君はまだ大丈夫みたいだし、変な事に巻き込まれる前に、家に帰るんだ」

「はい? あの、私は特別扱いして欲しいだなんて言ってないんです。もちろん、特別扱いしてくれると嬉しいですが……そこを譲歩して公平にと言っているんですよ?」

「いや、だから公平にと言われても……君がそういう事に興味を持つのは、十年早いよ」


 この幼い少女を巻き添えにしないように……というつもりで言ったのだが、どうやらこの俺の発言がダメだったらしく、少女の顔色が変わる。

 しまった。子供って、子供扱いされるのを嫌うよな。

 そう思ったのだが、今更どうする事も出来ず、兎耳族の少女が泣きそうになっている。


「……ズルいズルいズルいーっ! 私は公平を司るんですっ! それなのに……あ! ふぅん……貴方、便利なスキルを持っているのね」


 泣きそうになっていた少女が一転して、ニヤニヤと笑みを浮かべると突然俺の分身が――複製スキルを含めて出現した。


「え? 何の事……なっ!? どうして、勝手に分身スキルが発動したんだ!? ま、待てっ! 解除……出来ないっ!? あ……あぁぁぁっ!」

「あらあらあら。貴方、スキルだけじゃなくて、凄いモノも持って……これぇっ! 初めて……これが、男の人なのねっ! しゅごいぃぃぃっ!」

「アレックス様っ!? どうしてこの状況で鬼畜モードの分身を……だ、ダメですっ! 目の前に謎の敵が……あぁぁぁ、アレックス様ぁぁぁっ!」


 違うっ! 違うんだっ! 俺は分身スキルなんて使っていなくて……くっ! 俺の分身や複製が、気を失っている女性たちにも容赦なく……これは本当にダメだっ!

 せめて……せめて出さないようにっ! ……って、クララと兎耳族の女の子が激しいっ!

 マズい、マズい、マズい! だけど……あぁぁぁっ! 何とか……何とか耐えるんだっ!


「あ、貴方……アレックスっていうのね。アレックス、我慢しないで。公平に……み、皆に出しちゃえば良いんだから」

「いや、良くないだろっ!」

「ふふっ、アレックスが素直に私としていれば、こんな事にはならなかったの……にぃ~~~~っ!」


 や、やってしまった。

 結局耐えられず……って、まだ解除出来ないのか!?

 どうして俺のスキルが勝手に発動して……どうすればいいっ!? どうすれば止められるんだっ!?


「≪リフレッシュ≫! ……くっ、効果が無い! やはり高位の治癒魔法が……」


 プリーストが居ない事を悔やんでいると、突然教会の扉が開かれた。


「お兄さんっ! 助けに……えぇぇっ! サクラちゃん、聞いてる話と違うじゃない。すっごく楽しそう……お兄さん! カスミちゃんも混ぜてーっ!」

「アレックスー! ズルいよー! レヴィアたんにもーっ!」

「アレックス! 当然ウチにも……そんな気絶している女じゃなくて、早くウチにするんよ」


 サクラの分身が、カスミにレヴィア、ヴァレーリエたちを連れて来てくれたのだが……混ざろうとするなって!

 いや、気絶している女性たちから、俺の分身や複製を引きはがしてくれるのはありがたいが。

 カスミたちに続いて、ナズナやソフィに、モニカやリディアもやってきて、それぞれ分身たちを引き取ってくれるのだが、そんな中で、


「アレックス。我にも早うするのじゃ! ……むっ? この魔力は……六合!? 六合ではないかっ! こんなところで何を……ナニをしておるのじゃ!?」

「え? あれ? ミオ!? ミオこそ、こんなところで何を……って、私の意識が飛んでいる間に女性が増えてません? ドラゴンに機人かしら? あら、エルフも居るのね。皆さん、回数は公平にしましょうね」

「相変わらずの公平っぷりじゃが……そういう意味では、我はまだしておらんから、とりあえず六合の言う通り、公平に我もしてから話すのじゃ……おぉぉっ!? アレックスは何か新たなスキルを得ておらぬか? より凄くなっておるのじゃ」


 えーっと、その兎耳族の少女はミオの知り合いなのか?

 六合って呼ばれていたが……六合!? 確かここは六合教って言っていたし、俺のスキルを勝手に発動させるような不思議な力……も、もしかしてシェイリーや騰蛇と同じ、凄い存在なのかっ!?

 というか、ミオと六合は俺の分身の上に乗りながら喋ってないで、この分身たちを止めてくれぇぇぇっ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る