第765話 戦略的撤退
「……ん。ごちそうさまですの。アレックス様のおかけで、耐えられましたの」
「ふむ。我としては回数が少なすぎて、物足りないのじゃ。戻ったら、すぐに続きをするのじゃ」
「ご、ご主人様ぁぁぁっ! わ、私だけ自分でって……酷いですぅぅぅっ!」
モニカが何か言っているが、ひとまずシアーシャが元気になったのと、ミオが気絶……まではいかないが、何度か結界が解け、フィーネの魔物除けの煙が散ったので、聖水をかけてもらった剣を手にして、周囲のレイスを倒していく。
……最初に付与してもらった聖水では、レイスを倒すのに二回攻撃しなければならなかったのだが、この濃厚な方の聖水だと一撃でレイスが倒せる。
これはつまり、モニカの聖水は別の方法で出した方が効果が高いという事か。
……いや、この情報は知りたくなかったな。
「≪ホーリー・クロス≫」
それはさておき、周囲のレイスを全て倒し終えたので、一休み……と思ったのだが、
「あ、アレックス様! これは……ダメですのっ! 逃げましょう!」
シアーシャの悲鳴のような声が上がる。
その声を聞いて、シアーシャの視線の先に目を向けると、巨大な白い虎と新手のレイスが居た。
もしかして、これがディアナの村を襲った、虎耳族なのだろうか。
「な、なんじゃと!? これは……どういう事なのじゃ!? どうして、お主がレイスを引き連れておるのじゃ! 白虎よ!」
「えっ!? これが、白虎!? シェイリーやランランと共に、魔王に挑んだという!?」
「その通りなのじゃ! 間違いない……が、我の声が聞こえぬのか!? 白虎!」
ミオの叫び声が聞こえていないのか、白い虎――白虎が大きな口を開けて吠えると、赤い光が生まれ……
「マズいっ! ミオ、俺の後ろへっ!」
空間収納から盾を出しつつ、ミオの前へ。
その直後、白虎から放射状の炎が迫って来たのを、盾で防ぐ。
盾が真っ赤に染まっている事から、相当な高温なのだろう。
おそらく、俺が炎耐性スキルを持っていなければ、盾を持てない程に。
「何故じゃ……何故なのじゃ!」
「ミオっ!」
「ち、違うのじゃ! 白虎は金を司るのじゃ! 火を苦手としているから、今の攻撃は有り得ないのじゃ!」
「それは……こいつは白虎の姿をした偽者という事か?」
「いや、この感じは間違いなく本物の白虎なのじゃ。……ただ、少しだけおかしな感じがするのじゃ」
目の前の白い虎が、俺たちが助けるべき白虎だとミオが言い、攻撃出来ずにいると、は再び白虎が吠える。
「アレックス様っ! 上ですのっ!」
「くっ!」
さっきの炎が俺に効かなかったからか、俺とミオの話を聞いていたかのように、天井から岩が……違うっ! 巨大な鉄の塊が落ちてきた!
「うぉぉぉぉっ!」
燃えるように赤い盾で鉄塊を弾いたが……盾が変形してしまった。
同じ攻撃が続くとマズい! なんとか立て直さないと!
だが、事前に白虎の攻撃に合わせて、レイスたちが向かってくる。
これは……流石にマズい!
「ミオさんっ! しっかりしてくださいっ! 今の攻撃は、生み出された鉱物による物理攻撃で、ミオさんの結界で防げたはずですのっ!」
「すまぬのじゃ。シアーシャの言う通りなのじゃ」
「だが、ミオの結界だと周囲のレイスが襲って来る。モニカの聖水も限界だろうし、ここは一旦引く! モニカ! しんがりは俺が務めるから、魔族領の外へ向かってくれ!」
モニカが先頭に立ち、魔族領の外へと走り出す。
白虎を注視しながら俺とミオも下がり、白虎が吠えて赤い光が見えたら俺が。そうでなければミオが結界を張って攻撃を防ぐ。
「ん? レイスはミオの結界を越えてくるが、白虎は越えて来ないのか」
「あの白虎は本物故、レイスと違って肉体があるのじゃ。だが、本物の白虎故に……止められぬのじゃ」
ミオが鉱物の攻撃を防ぐ為に張った結界に向かって白虎が前足を振るい……結界が破壊される。
炎で赤く変色し続けている盾の耐久性に不安を覚えつつも、何とか攻撃を防ぎ続けていると、モニカの声が響く。
「ご主人様っ! ザシャ殿とレミ殿の姿が見えました! もうすぐ魔族領の外ですっ!」
「……マズいな。ドワーフの話では、魔物が魔族領を出て攻めて来た事は無いという話だったが、これで出てきたら……モニカ、火を頼むっ!」
フィーネの魔物除けに火をつけ、幾つか後方に投げる。
ひとまずこれでレイスは止められるはずなので、問題は白虎なのだが、
「白虎の動きが止まった?」
どういう訳か、霊体や幽霊の類ではない白虎が動きを止め、俺たちは一体の魔物も引き連れずに、魔族領の外へ出る事が出来た。
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