第764話 聖水不足

「≪ホーリー・クロス≫」


 何度も攻撃スキルを放って倒していたレイスが、モニカに聖水を付与してもらった剣だと、二回の攻撃で倒せるようになった。

 さらに、剣を振るった際に聖水が飛び散り、周囲に居る他のレイスをひるませる事が出来るというおまけ付きだ。


「ご主人様。これは、ホーリー・クロス改……モニカ・クロスという技名にしてはいかがでしょうか」

「…………か、考えておくよ」

「ご主人様が攻撃する度に、私の名前を呼んでいただけるとなると、嬉しくて聖水が漏れてしまいそうです」

「≪ホーリー・クロス≫」

「えぇ……ご主人様!?」


 モニカの戯言は無視しつつ、際限なく現れるレイスを倒していく。

 だが、途中でこの攻撃の欠点が現れる。


「≪ホーリー・クロス≫……くっ! 聖水の効果が切れたか!」

「お任せください! まだ聖水は出せます!」

「……た、頼むよ」


 ひとまず、攻撃スキルの連打でレイスを倒すと、ミオに結界を張ってもらって、その間にモニカのおし……聖水を掛けてもらう。

 だが、想定外の事態に陥る。


「なっ……レイスが結界を越えようとしている!?」

「むぅっ! 我の結界は物理寄りなのじゃ。霊体であるレイスやゴーストといった類とは相性が悪いのじゃ」

「剣は……まだか」


 モニカが俺の剣の上でいきんでいるので、あの様子だとまだ時間が掛かりそうだ。

 モニカの剣と俺の剣……流石に三回目の聖水は厳しいか。

 とはいえ、俺に使える聖属性の攻撃は二つしかない。

 普段使っているホーリー・クロスと、奥の手のグランド・クロス。

 後者は、使用すると動けなくなるから、大量にレイスが現れるこの状況で使う事は出来ない。

 だが、どうすれば……何か、無いのか!?


「≪マジック・バレット≫」


 シアーシャが何かのスキルを使用し、レイスが少し後退する。


「アレックス様。私は夜にしか力が出せませんの。ですから、日中はこのような無属性の魔力を飛ばす事しか……」

「いや、ありがとう。何か、策を考える!」


 シアーシャが時間稼ぎをしてくれているが、周囲からレイスが集まって来ているので、このままでは数十秒後には囲まれてしまう。

 モニカは……まだか。

 とりあえず、剣を使わせてもらって、ホーリー・クロスを連打した方が良さそうだが……そうだ!


「これは……どうだっ!? モニカ、火を!」

「ふぇ? は、はいっ! ≪ロー・フレイム≫」


 前に第四魔族領へ戻った際、フィーネから渡された大量の魔物除けを地面に投げ、モニカに火をつけてもらうと、白い煙が立ち昇る。

 このフィーネが作った魔物除けは聖水を使って作っていると言っていたから……よし! 思った通りレイスが結界から逃げて行く!

 これで、モニカには焦らずゆっくりと聖水を出せるはずだ。


「……って、この煙は結界を越えないのか」

「あ、アレックス様。この煙……わ、私には辛いですの」

「アレックスよ。良い手ではあると思うが、結界の外で使うべきだったのじゃ」


 視界が真っ白になり、何も見えない。

 しかし、俺やモニカ、ミオには全く影響がないのだが、吸血族のシアーシャが苦しんでいる。

 だがモニカの聖水付与が終わっていない状況で、ミオに結界を解除してもらうのもマズい気がするのだが……シアーシャには治癒魔法も使えないし、どうすれば良いんだ!?


「あ、アレックス様! も、もうダメです……失礼しますのっ!」

「シアーシャ!? こんな状況で何を……」

「アレックス様のアレを飲ませていただかないと、死んでしまいますの! 早く出してくださいませっ!」


 いや、結界の中とはいえ周囲をレイスに囲まれている上に、煙で視界が全く無い状態で、シアーシャが俺のズボンを下ろしてきた。

 命に係わるから仕方がないが……モニカは!? モニカはまだなのかっ!?


「ご、ご主人様。通常の聖水を出し過ぎてしまったので、もう一つの……ご主人様に弄っていただいて出る方の聖水に切り替えます! ですから、私にもご主人様のを……」

「そういう事なら我も混ぜてもらうのじゃ。不公平なのじゃ!」


 さ、三人とも今の状況がわかっているのか!?

 魔物に囲まれているんだぁぁぁっ!

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