第763話 第二魔族領になった場所
第二魔族領へ一歩足を踏み入れると、途端に空気が変わったような気がする。
何というか、たった一歩の違いで、重苦しく感じてしまう。
「これは……何だ?」
「アレックス様。これはいわゆる、瘴気というやつですの。この辺りに悪い気が溜まっていますの」
シアーシャが説明してくれたが、きっと俺には見えない何かがあるのだろう。
「おとん……これ、アカンやつや」
「レミ!? 大丈夫か!?」
「たぶんやけど、ここはメイリンおかんと相性が悪すぎるんやと思う。ちょっと……ウチは外で待ってるわ」
「待った! そういう事なら、一旦全員で戻ろう。レミだけを外に戻すのは危険だ」
どうやらレミの状態は、一種の状態異常のようで、パラディンの防御スキルであるディボーションを使用しても、肩代わり出来なかった。
なので一旦全員で後退し、相談した結果……ザシャにレミを見ていてもらう事に。
ドワーフたちの話では、魔物は魔族領から出て来ないらしいが、何かあったら困るからな。
「すまないな。なるべく早く戻る」
「レミの事は私に任せな」
「おとん、ごめんなー」
二人に見送られ、ミオ、シアーシャ、モニカと共に四人で改めて魔族領へ。
重苦しい空気の中、正直歩く事すら少し辛く感じる中で、
「ご主人様! 何やらお身体がすぐれない様子……このモニカがお身体を支えましょう。さぁ胸に飛び込んで来てください!」
俺の横に来たモニカが、胸を押し付けてきた。
「モニカ。から元気で無理しなくても……いや、全く無理してなさそうだな」
「凄いですの。この瘴気の中で、そのように動けるなんて」
「乳女よ……流石に見直したのじゃ。一体どうなっておるのじゃ? はっ! もしや、その乳に溜め込んだ栄養のおかげで動けるのか!?」
シアーシャとミオが驚く中、モニカが俺の腕を取り、胸で挟む。
とりあえず、どんな魔物が現れるかわからない場所なので、ちゃんと警戒するように言ったところで、シアーシャから警告が飛ぶ。
「アレックス様! 来ましたの!」
この瘴気のせいか、魔物の気配が全く掴めないのだが、どうやらシアーシャはわかるようだ。
少しして、二体の灰色の何かが飛んで来た。
これは……カタコンベで現れたゴーストか!
今更ではあるのだが、周囲に目を向けると、墓のような物が沢山ある。
……ここは、ドワーフ族の墓地だったのか。
「≪ホーリー・クロス≫」
十字の斬撃をゴーストに放つと、半透明のゴーストが消滅……しない!?
「アレックス様! カタコンベに居たゴーストとは違いますの! こいつらは、おそらくレイス……ゴーストとは比べものにならない強さですの!」
シアーシャの声が響き、再び攻撃スキルを放つが、レイスたちは怯むものの、すぐに向かってくる。
二体のレイスは、何処から取り出したのか、黒い鎌を取り出して、頭よりも高く振り上げる。
それを盾で防ごうと構えると、
「セイント・ソード」
モニカが聖水をかけた剣を振るい、レイスの鎌が真っ二つになって消滅する。
「≪ホーリー・クロス≫」
武器を失ったレイスに、ホーリー・クロスを数回放ち、モニカの聖水剣と共にようやくレイスを倒した。
「モニカ、助かったよ。ありがとう」
「いえ、ご主人様をお守りするのは当然です!」
ゴースト系の魔物に物理攻撃は効かないので、俺のホーリー・クラスの威力がかなり弱まっている。
……モニカに頼んで、俺の剣に聖水を掛けてもらうべきだろうか。
ユーリにはしてもらった事があるので、それと何ら変わりないはずなのだが、モニカに……となると、躊躇してしまうのは何故だろうか。
「ご主人様。剣に聖水を掛けますので少しお待ち下さい」
「あ、あぁ」
「あ、そうだ。ご主人様の剣にも、私の聖水をお掛けいたしましょうか?」
「………………頼む」
「ご、ご主人様。聖水を掛けるか否かで悩み過ぎでは……いえ、ひとまず掛けますね」
モニカに俺の剣を渡すと、その場でしゃがみこみ、チョロチョロと……し、仕方がないんだ。
レイスに苦戦し、仲間たちを危険に晒すくらいなら、剣にモニカのおしっ……聖水が掛けられるくらい、何でもない。
そう。例え、掛け過ぎで垂れてきても、これはあくまで聖水……紛れもない聖水なんだ。
「あの、ご主人様。どうして剣を人差し指と親指だけで持つのですか? それでは剣が振れないのでは?」
「だ、大丈夫だ。戦闘が始まったらちゃんと……うん。大丈夫」
モニカへの返事というより、自分に言い聞かせるように呟きながら、歩みを進める事にした。
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