第762話 第二魔族領

「では、ちょっと偵察に行ってくる。悪いが、ニナたちは文献の調査を頼む」

「うんっ! お兄さん、いってらっしゃーい!」


 ニナたちに見送られ、ミオ、ザシャ、シアーシャ、モニカ、レミと共に、トロッコで魔族領へ。

 ひとまず、ドワーフの道では元の姿でも問題なさそうなので、変化スキルを解除して、トロッコを走らせる。

 少し進むと、堅牢な門が見えて来た。

 これまで通って来た国境は鉄格子のような門で、門の向こう側が見えていたが、ここは分厚い鉄板のような扉で、向こう側の様子が一切見えない。


「お前たち! 道を間違えているぞ! こっちは魔族領だ。何人たりとも、立ち入りを禁じられている。引き返すが良い」

「いや、ドワーフの本部の女王と、イベールの王女から許可を得ているんだ」

「何だと!? 少し待っていろ。確認する」


 俺たちのトロッコを止めた女性兵士が、小屋の中に入ると、少しして戻って来た。


「確かに、お前の言う通りだった。だが、この先は我らドワーフは誰も入った事の無い、禁忌の地だ。何が起きても知らんからな?」

「あぁ、承知の上だ。それに、今回は偵察に行くだけで、魔族と戦ったりはしないから安心してくれ」

「そういう事なら……いや、待て。つまり、すぐに戻って来るという事か?」

「まぁそのつもりだが……」

「では、合言葉を決めておこう。魔族領から魔物が攻めて来た事がないから、どのような魔物が現れるかわからん。万が一、身体を乗っ取られるとか、操られるとかして、お前たちに紛れて魔物が侵入してきては困るからな」


 身体を乗っ取るとか、操るとか、そんな事をする魔物など居るのだろうか。

 いやでも、姿を変える魔物くらいはいるかもしれない。

 俺だって姿を変えるスキルを持っているし、シェイリーやランランだって姿を変えるからな。


「そうだな。では、私が山というから……」

「俺たちは川と答えるのか?」

「鉄と答えてもらおう。というか、どうして山と言ったら川なんだ? 山と川に何の関係が?」


 いや、どうしてって聞かれると俺も困るのだが、何となくというか……まぁドワーフからすれば、山といえば鉄なのかもしれないな。


「気にしないでくれ。では、俺たちは鉄と答えよう」

「うむ。そうすれば、この扉を開く。だが間違えれば、この扉は開かぬから注意するように」


 そんな話をして……重厚な扉がゆっくりと開かれる。

 早速、トロッコを走らせようとして……再び兵士から待ったが掛かった。


「すまない。実は私も、この扉を開くの初めてなのだが……数十年手入れがされていないから、この先のレールが使い物にならん。トロッコを置いて歩いて行った方が良いだろう」

「……俺からすれば、ちょっと錆びているだけにしか見えないのだが、そんなに酷い状態なのか?」

「うむ。間違いなく脱輪するぞ?」

「……わかった。では、忠告に従い歩いて行くとするよ。ありがとう」


 ここまで移動に使ってきたトロッコだが、残念ながらここまでのようだ。

 レミを抱っこした俺を先頭に、ミオとシアーシャが歩き、最後尾をザシャとモニカが歩く。


「アレックスよ。偵察などと言わず、サクッと魔族を倒してしまえば良いのではないか?」

「それが出来れば良いが、どうせならより安全な方が良いかと思うんだが」

「ご主人様なら出来ると思うのですが……」


 ミオとモニカが、このまま魔族を倒せば……と言ってくるが、皆を危険な目に遭わせる訳にはいかないからな。

 特に、俺が無策で突っ込んだ結果、これまでドワーフ国を攻めて来なかった魔族領の魔族が侵攻を始める……なんて事になったら目も当てられない。

 そんな話をしながら、一本道のドワーフの道を暫く歩いていると……


「あ、アレックス様! こ、この先は危険ですの!」


 突然シアーシャが大きな声を上げる。


「危険……って、魔族領なのだから、魔物が普通に居ると思うのだが」

「そうではありませんの。ただ、非常に強い魔物が大勢居ますの」

「わかった。とはいえ、このまま何もせずに帰るのもどうかと思う。とりあえず、ここから先は慎重に行こう」


 以前としてシアーシャが心配そうにしているが、ようやく第二魔族領へ足を踏み入れた。

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