第218話 気付いてくれないユーディット

「ヴァレーリエよ。レッドドラゴンになる事が出来る竜人族なんよ。この中でウチが一番……こほん。な、何でもないんよ。宜しくお願いします」


 色々あったものの、ヴァレーリエがここに住むと言い、昼食の際に皆へ紹介する。

 ただ、竜人族以外の種族を下に見ようとするらしく、ジト目を向けていたら慌てて訂正していたが。


「ドラゴンに変身出来るなんて、凄ーい!」

「ねぇねぇ、炎とか吐くの? 空とか飛べるの?」

「え!? じゃあ、背中に乗って空を舞えたりするッスか?」


 ドラゴンと聞いて、ノーラ、ニナ、ビビアナが目を輝かせて問いかけているが、背中に乗るならシェイリーでも……って、忘れがちだけど、神獣だもんな。

 気軽に乗せてくれとは言い難いか。


「当然なんよ。レッドドラゴンのブレスは、あらゆるものを燃やし尽くし、空だって飛べるんよ。とはいえ、飛竜なんかとは種族が違うから、長距離は飛べないけど」

「へぇー! いいなぁー! お兄ちゃんはヴァレーリエさんの上に乗ったのー?」

「当然! アレックスはウチの上にも乗ったし、ウチもアレックスの上に……」


 ヴァレーリエが得意げに余計な事を言おうとしたので、慌ててその口を塞ぐ。

 とりあえず、ノーラ相手に変な事を言うのはやめてもらおうか。


「そ、そうだ! ドラゴンの姿で空を飛べるという事は、俺たちを乗せて南の街へ行けたりするって事か!」

「うーん。南の街っていう所まで、どれくらいの距離かに寄るんよ。さっきも言ったけど、飛竜や空竜に、風竜なんかは長距離飛行が得意だけど、ウチはそれなりの距離しか飛べないんよ」

「そうか。残念だな」

「あ、待って! で、でも、アレックスが望むなら、頑張るんよ! 一回で行けなくても、休憩しながらで良ければ、きっと行けるんよ!」

「なるほど、休憩か。南の街へ向かう為、ある程度飛んでもらって、無理のない場所に休憩用の中間地点を作るっていう手はアリかもしれないな」


 徒歩で壁を作りながら南を目指しても、いつ着くか分からないし、ヴァレーリエに飛んでもらえば、皆を家に帰してあげられそうだ。


「では、悪いが一度南に向かって、無理のない程度に飛んでもらっても良いか?」

「勿論なんよ。アレックスが望むなら、ウチは何でもするんよ」

「ちなみに、何人くらい乗れるんだ?」

「んー、実際に人を乗せて飛んだ事がないから何とも言えないけど、とりあえず六人くらい?」


 となると、飛んだ先で休憩所を作るなら、リディア、ニナ、ノーラ辺りが必須で、連絡要員に誰かの人形といったところだろうか。

 あと空を飛ぶので、万が一の場合にユーディットを……いやしかし、安静にしていて欲しいという気持ちもある。

 まだ安定していないから、皆には言わないで欲しいと言われているが……そういえば、ユーディットが言っていた、もう一人の妊婦は誰なのだろう。

 無茶はさせられないし、それがリディアかニナだとしたら、こっちで待機してもらうべきだしな。


「アレックスさん? 私の顔をじっと見つめて、どうされたのですか?」

「ニナの事も見てたよー?」

「あぁ、すまない。ちょっと考え事をしていてな。一先ず、ヴァレーリエに乗せてもらい、南に休憩所を作ろうと思うんだ。そこへ、リディア、ニナ、ノーラに同行してもらいたいのだが、構わないだろうか?」


 そう言って三人に目を向けると、三人とも了承してくれた。

 ノーラは大丈夫だとして、リディアとニナは妊娠していないかを確認しようと、ユーディットに目を向けると、キョトンとした様子で小首を傾げられる。

 ユーディット、気付いてくれ!

 この二人を連れて行って大丈夫かどうか、教えて欲しい……って、何故そこで照れるんだ?

 いや、はにかみながら浮かべた笑顔は可愛いが、今求めているのは、そういう事じゃないんだよ。


「むー。お兄ちゃんが、ユーディットちゃんばかり見てるー。ボクも見てよー!」

「お兄さん。さっきはニナが可愛いから見つめてくれたんだよね?」

「アレックス。ウチの事も、もっと見て欲しいんよ。その、色んな所まで」


 いや、ノーラとニナはともかく、ヴァレーリエは何かニュアンスがおかしくないか?

 何だか、ヴァレーリエのキャラが来た直後と大きく変わったなと思っていたら、


「ちょっと待って欲しいッス! 自分も……自分もドラゴンに乗ってみたいッス! 力仕事で頑張るので、どうかお願いするッス!」


 ビビアナが南への移動に懇願してきた。

 ……空を飛ぶ事が目的ではなくて、南の街へ行く事が目的なんだけどな。

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